関孝弘 ピアノ・リサイタル

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関孝弘さんには「日本とイタリアを結ぶピアニスト」というキャッチがあるようです。珍しく色々タイミングが合いソワレに行けることになったので参戦。隣の小ホールでは漆原朝子さんと伊藤恵さんのデュオによるブラームスの演奏会がありました。3年前の12月には僕も同じ会場で漆原さんのヴァイオリンを聴いたのを思い出しました(感想記事はこちら)、そのときのピアノは今峰由香さんでしたね。


【関孝弘 ピアノ・リサイタル】
(2022年12月8日、東京文化会館大ホール)

スカルラッティ:4つのピアノ・ソナタ
レスピーギ :
 『リュートのための古風な舞曲とアリア』第3組曲 P172より 第3曲 「シチリアーナ」
 6つの小品 P44より
  第6曲 間奏曲
  第3曲 ノクターン
リスト : バラード第2番 ロ短調 S171 R16
村井邦彦:
 スノー
 1月のカンヌ(世界初演)
 エレナ
 タンゴ

アンコール
ニーノ・ロータ:BACHの名によるワルツ第1番サーカス・ワルツ
ショパン:ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作


僕は関さんの弾くチマローザのソナタ集のCDを長く愛聴しており、それ以外は不勉強なことにあまり詳しくないですし、生演奏を聴くのも初めて。いやあ、本当に、素晴らしかったです。まずは挨拶代わりのスカルラッティ、イタリアと言えば、そして鍵盤といえば外せないスカルラッティ。素人が弾くと本当につまらない演奏になりがちなんですが(あ、自分で弾く分には楽しめますけどね、他人を楽しませる演奏をするのは超難しい)、美しい澄んだ音色、丁寧な歌い方、選曲も徐々に徐々に盛り上がっていくような4曲で、非常に楽しめました。良いスカルラッティでした。続くイタリア音楽はレスピーギ、本日の演目でおそらく最も有名なシチリアーナの聴かせ方も良かったですが、それを上回るほどに美麗なる音色で歌う間奏曲とノクターン、これがたまりませんね。もっとレスピーギのピアノ作品をしっかり聴き込みたいと思いました。前半の最後はリストのバラード2番、なぜここにきてイタリアではなくなるのか謎ですが、おそらくお気に入りの曲なのでしょう、技巧も冴えた熱演。やっぱり、独墺系ともロシアンピアニズムとも違う、こういう関さんのようなスタイルの演奏で、ロ短調ソナタ聴いてみたいなあと。こういう、対位法とかポリフォニーとかではなく、明確な単旋律にピアニスティックな装飾が加わりながら進行する音楽の演奏、スカルラッティもレスピーギも、そういう曲で表現するのは彼の真骨頂なんでしょうね、だからリストのバラードは合っていたと思います。

休憩を挟んで後半は、「翼をください」の作曲者としておなじみの村井邦彦さんの作品。村井さんはクラシックではなくポップミュージックの方ではレジェンド的な存在。ユーミンやYMO、カシオペアなど錚々たるアーティストを世に送り出したプロデューサーで、アルファレコードの創設者です。


↑の記事の最後の方に「現在は、映画やドラマの音楽を手がけたり、クラシック系のアーティストのサポートを行ったりと、それまでとはまた違う新たな分野にも関わるようになっている」と書かれており、今回の関さんとのプロジェクトはまさにそのクラシック系アーティストとの共同作業の一つなんですね。村井さんのクラシック作品には詳しくないので、こちらも楽しみでした。どの曲も、基本的には美しいメロディに少し外したオシャレな和声と激しい転調、技巧的なピアノパッセージが散りばめられ、さながらジャズあるいはラウンジ系ピアノっぽい雰囲気でした。映画音楽風とも言う。ブルーノートやビルボードなんかで聴いても似合う曲ですね。


ちなみに2曲終わった段階で、ステージにモニターが登場し、ロス在住の村井さんと繋いでお話するという面白い試みもありました。本当は今日のコンサートも来る予定だったそうですが、来られなくなってしまったとのこと。現地時間午前3時、楽曲解説など楽しくお話しされていました。


1曲は「スノー」、その村井さん自身による解説によると、祇園に降る雪をイメージしたそうで、高音のフレーズは竹から雪がはらりと落ちる様とのこと。「スノー」に続く2曲めは今回が初演となる「1月のカンヌ」。夏ではなく、冬の少し寂しげなカンヌで語らう男女……のような曲だそう。2019年に亡くなった、村井さんとも親しかったミシェル・ルグランへのオマージュで、彼に捧げた作品だそうです。確か村井さんは、ルグランとナナ・ムスクーリを想像して、と言っていたと思います。めっちゃミシェル・ルグランっぽいんですが、個人的にはこれを思い出しました。この部分に近いメロディ、つまりエモい、ねっとり歌うルグラン風の歌にコロコロと変わる調も、いかにもそれっぽい。3曲めは「エレナ」、村井さんが関さんの娘さんであるエレナさんのために書いた、関さんに贈った曲としては最初の曲で、15年前の作品だそうです。関さんのお家に村井さんが遊びに行った際、当時小学生くらいのエレナさんがかわいくてかわいくて、それでこんなにかわいい作品になったそうです。最後は「タンゴ」、これは村井さんが、仲良しのアレンジャー、ホルヘ・カランドレッリに曲を聴かせた際、「これはタンゴだよ!」と彼がアレンジして出来上がった曲だそう。ということで、いかにもなタンゴ風ではありましたが、さすがに前3曲聴いているので、村井ピアノ作品らしさもあるなあと思って聴けました。


ポピュラー畑の人のクラシック曲は、楽しい曲を書ける人もいればそうでない人もいますけど、村井さんの曲はその点良い塩梅というか、芸術音楽としての気概とポピュラーの良いところの両方がちゃんとわかって、楽しく聴けました。単旋律と技巧的装飾と転調、前半のプログラムの特徴とも一致していて、村井さんと関さんの相性も良いんだなあ、と。


4曲終えて再び村井さんがモニターに。エレナさんご本人が舞台に上がり、モニター越しで花束を渡していました。村井さんは「大きくなったね」と言っていました。アンコールはニーノ・ロータのサーカス・ワルツ。ポピュラーとクラシックを横断した作曲家ですね。来られていたイタリア大使も紹介され、その後おもむろに関さんがマイクで話し始めました。今回のコンサートに来るはずだった、ある大切な方が急逝されて、まるで心にぽっかりと穴が空いたような気分だということ。音楽はそういう心に届くもので、耳に入っただけでは「音」、心の奥底に響いたら「音楽」だという言葉を紹介し、次の曲はその亡くなった方に捧げたい、と。そこでショパンのノクターン。渾身のショパンでした。


今回のリサイタルは都内の小学生も招待されていました。東京文化会館大ホールという大きい箱で、演奏会中に多少の雑音はあったような気もしますが、このノクターンの最後、誰もフライングで拍手したりせず、咳やくしゃみもせず、物音一つ立てずに完全な静寂が作られたことは、ちょっと凄いなと思いました。最後の最後だから子どもたちも疲れて静かにしてた?でも疲れると煩くしちゃう子どももいるしなあ。偶然?そりゃ、偶然は偶然でしょう。こんなの、たまたまですよ。でも、そういうものなんですよ。最近某コンサートで、招待された小学生がうるさかったようで、僕は行ってないのでわかりませんが、ネット上では小学生にブルックナーは早いとか小学生は入れるな中学生からだろとか、いやいや集中して聴いていれば雑音は気にならないとか海外ではどうだとか子どもに寛容でないと文化は育たないとか、色々と話題になっているのをちらっと見ました。マナーは大事ですし、僕もよくブログでグチグチ書いたりしますけどね(笑) ただ、今回の演奏会で、このような完全な静寂が生まれたのは純然たる事実ですので、そのことをしっかりと記録しておきましょう。そう、演奏会という場において、音楽の演奏ないし音楽そのものにおいて、あるいは人間にとって、本当に大切なことは何か。そう!そういうことだぜ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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