先日、上野で聴いたカルテットの感想記事のところで、駅近のホールじゃないと夏は厳しいよねなんて書いたのですが、今回行くかつしかシンフォニーヒルズは駅からちょっと歩く……ここは車では来たことあるんですが、電車で来たのは初めて。青砥駅にはなんとヨハン・シュトラウス2世が。ホールにはモーツァルト像もあるし、青砥は東京のウィーンですね!
【作曲家の秘密 《シーズンⅣ》第14回 ロベルト・シューマン 吉田浩之(テノール)】
(2023年7月19日、かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール)
シューマン:「ミルテの花」より、くるみ、ハスの花、君は花のよう
シューマン:「詩人の恋」(全曲)
アンコール シューマン:小さな練習曲、「ミルテの花」より献呈
吉田浩之(テノール)
丸山滋(ピアノ)
このホールの「作曲家の秘密」というシリーズものは、作曲家について話をしながら演奏するコンサート企画のようで、テノールの吉田さんが色々と解説しながら歌うものでした。吉田さんは「話すのは苦手で」とおっしゃっていて、本当にその通り、トークはなかなか苦手のようで。それでも、その「ぶきっちょな」トークで笑いも取っていましたし、トークがグダグダでも歌が良くて、ギャップあり過ぎて面白くて(笑) 吉田さんが「ある歌い手は、歌うときに話さないんだと言っていた、何を話しても歌を補ってしまって、言い訳になってしまうから」という話を出して「だから今日は言い訳コンサートです」と言っていましたが、トークは歌を補うどころか逆に引き立てるという、なるほどその手もあったか……いやいや、実際に歌自体が良かったのですが。
たとえトークは上手でないとしても、解説を聴いてから歌を聴くと理解も深まります。作曲の背景や、吉田さんのシューマンにまつわる思い出など。初めて聴いたシューマンの曲が4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュックだという話もありました。ピアノの丸山さんもホルンをやっていたとのことで、音の好みが似てるなんて話もしていました。そんな話をして聴く「ミルテの花」、とても親密な空間なように感じられて良かったです。
後半は丸山さんが、クララとロベルトの結婚について、クララの父フリードリヒ・ヴィークの立場から話されていたのは面白かった。手塩にかけて当代一のピアニストに育った娘が、今でこそ誰もが知る作曲家ロベルト・シューマンだが当時は訳わからない新しい音楽を作る作曲家で、そんな人と結婚するなんて言い出したら、厳格な父ならそれは反対もするでしょ、と。吉田さんが「絶対ダメです」と言って笑いが起こっていました。「詩人の恋」は分割して、解説を挟みながら歌います。「このやり方は難しい、つい次も歌ってしまいたくなる」と仰る通り、慣れなくてやりづらそうではありましたが、それでも歌になると切り替えて美声を轟かす、詩人の恋らしい、若々しさあふれる歌で楽しかったです。今年還暦でと仰るのもなんのその、若い若い青春の歌を響かせていました。これ全曲続けてだったらもっとノリにノッたんでしょうが、そこはまあ解説付きとのトレードオフなので仕方ない。丸山さんのピアノも素晴らしかったです。第12曲、良いですね。終曲の後奏でなぜ客席は物音を立てるのか理解に苦しむ、ほんのわずか、待てないものかね。
アンコールは、丸山さんがシューマンとの出会いの曲だと語る「小さな練習曲」、これは良いチョイスでした。ここでトロイメライとかでなくて良かった、だからこそ、その後の吉田さんも含めてアンコール2曲目として最後に歌った「献呈」がそれはそれは映える映える、素晴らしかったわ。後味最高、聴後感最高のコンサートでした。このシリーズ、次は福田進一さんでグラナドス&タレガ&アルベニスだそうです。いいな。予定調整して、行きたいですね。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more