アドルフ・サックス、ティンパニを作る

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先日、ヴァンサン・ダンディがワーグナーのパルジファルの初演を観に行った話を書いた際、知人より「ティンパニのグリッサンドを最初に取り入れたのは多分ダンディ」という話を聴き、へーと思ってちょっと調べてみたら、James Bladesの“Percussion Instruments and Their History”(1992)にそのような記述を発見した。その知人いわく古いティンパニ教本に書いてあったそうだ。ダンディの傑作、交響詩「山の夏の日」で使われたのが、おそらく最初だろうと。ダンディは保守的と言われることが多いが、意外と楽器法に関してはパイオニアでもあるのだなあと、また一つ明日使える(使えない)ムダ知識を得て満足した。


上の画像が“Percussion Instruments and Their History”の中の当該部分なのだが、なんとなしに下の方に目をやると、「ダンディはA・サックスのtimbales chromatiqueを念頭に置いているかもしれない」と書いてある。これは当然、時代的にも、サクソフォンを作ったことで有名なベルギーの楽器製作者、アドルフ・サックスのことだよね……と思ったが自信はなく、サックスがサクソフォン以外にも多くの管楽器を作ったことは僕もなんとなく知ってはいたものの、まさか打楽器も作っていたとは……まあ作っていたとしても不思議じゃないけど、いや本当にサックスってあのサックスさんのことか? と疑問に思い、サックスに詳しい方に訊いてみた。この方です→ https://kurisaxo.blogspot.com/


すると、すぐ画像を送ってくださり、なんとサックスがティンパニを叩いている絵だった。しかも胴がないティンパニ。なんじゃそりゃ。いやまあ、はじめ僕はその絵を見てもサックス本人かどうかわからなかったので一応ググったのだが、これは顔的にサックス本人でしょう。絵のソースは1869年のLe Magasin Pittoresqueで、それも検索したら版権があって購入しないといけないので、一応ここには貼らないでおく。売っているところのリンクを置きますので、気になる方はご覧になってください。リンクはこちら


送ってもらった画像が載っていたのはJean-Pierre Roriveの“Adolphe Sax : His Life, his Creative Genius, his Saxophones, a Musical Revolution”という書籍で、€48だったそうだが今見たら独Amazonでは中古が€132、英Amazonで中古が£125だった。わお。その本によると、結局胴無しのティンパニは上手くいかなかったものの、おそらくベルリオーズの要望で、サックスは決まった音程しか出ないのではなくあらゆる音を出せるティンパニを研究し、1855年にペダルで音程調節するTrompette Timbaleを製作。ジョン・ベックのEncyclopedia of Percussionにもサックスの名が載っていました。


ダンディのティンパニ・グリッサンドの件でも参照したJames Bladesの“Percussion Instruments and Their History”にもサックスのティンパニについて記述があった。ペダル付きティンパニを最初に作ったのはサックスではなくドイツの技術者だそうで、それが1843年。サックスのは、それとはまた少し違う仕組みで音程を調節するようで、詳しく書くのは省くがざっくり言うと、ペダルで胴の内部空間を広げたり狭めたりする方法だったのを、サックスは革とリムに支柱を繋ぎそこを締めたり緩めたりするという方式に変えたのだと思われる。ペダル付きKettle Drumひと揃えをTimbales Chromatiqueと言い、作曲家も指定してオーケストラ作品などのスコアにそう書くようになったようである。ダンディは交響詩「山の夏の日」でそれを想定していたのではないか、とのことだ。


現代のティンパニが、ペダルやハンドルでどのように音程を変えているかは、YAMAHAの「ティンパニの成り立ち」というページがシンプルで図もあってわかりやすいと思う。このような方式に至るまで、サックスもそうだが、過去の音楽家や楽器製作者たちの努力があったということだ。


とりあえず、サックスは管楽器だけでなく、打楽器の改良にも意欲的に取り組んでいたことがわかった。また一つ明日使える(使えない)ムダ知識を得てしまった。ちなみに今回のティンパニの依頼者ベルリオーズとアドルフ・サックスについては、以前書いたベルリオーズの「葬送と勝利の大交響曲」の記事でも触れている。主にバス・クラリネットについてである。


僕は別に楽器の歴史に特別詳しい訳ではないけど、たまに興味が湧いてこうして調べると楽しいものだ。古楽器の話なら、今年の2月にLautenklavierというバッハの愛した楽器についてブログに書いた。復元されており、なかなか不思議で素敵な響きを持つ楽器だと思う。また、2014年に書いた、フルートについての講演会のレポでも楽器の歴史について触れている。楽器は様々な変遷があって今の形があるということを忘れずに、まあ、また気が向いたら色々調べてみようかな。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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