リード エルサレム讃歌:「吹奏楽」の感動を

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アルフレッド・リードの世界


リード エルサレム讃歌


アルフレッド・リードをこのブログで取り上げるまで、僕は相当の時間辛抱したつもりだ。何故か? それは、このブログで多くの偉大な作曲家を取り上げ、ビッグネームがずらずらと並んでから、それから初めてリードの名をそこに連ねたい、とずっと思っていたからである。吹奏楽界を代表する作曲家を、ベートーヴェンやモーツァルトと同列で紹介したかったのだ。彼らに劣らぬ偉大な音楽家だと主張したいのだ。ブログを初めて5年目になるが、ついにリードの記事を解禁することにしよう。
日本で最も有名な吹奏楽の作曲家といえば、多くの人がきっとこのアルフレッド・リードの名前を挙げるに違いない。アメリカに生まれ、ジュリアード音楽院でジャンニーニに作曲を師事。その後は吹奏楽団の指揮や、多くの作品を発表し、1966年にはマイアミ大学の音楽科で教授となり作曲を教える。
作曲家・指揮者として活躍する中、彼の吹奏楽作品「音楽祭のプレリュード」が1970年の全日本吹奏楽コンクールで課題曲となり、日本で人気を博す。1981年に初来日。その後も何度も日本で指揮、指導を行い、洗足学園音楽大学の客員教授も務めた。7つの「吹奏楽のための組曲」や、「アルメニアン・ダンス」など、多くの作品が吹奏楽の定番になっている。
今回取り上げる「エルサレム讃歌」も、彼の作品の中で人気の高いものの1つである。「アルメニアの復活祭の賛美歌に基づく変奏曲」という副題があり、7世紀頃の賛美歌がモチーフの作品だ。
この賛美歌は、アルメニアの音楽学者であるゴミタス・ヴァルタベッド(ゴミタス修道士、という意味。コミタスは昔の聖歌作者の名前で、それを受け継いだもの。本名はソゴモン・ソゴモニャン)が集めたアルメニアの聖歌集の中のひとつ。ゴミタスは聖歌以外にも、民謡も蒐集しており、その主題をモチーフにした作品が、リードの最も有名な作品「アルメニアン・ダンス」である。
そのアルメニアの音楽がリードの元へやってくることとなったのは、イリノイ大学でゴミタスの研究をしているハリー・ビージャンという学者・バンド指導者が、ゴミタスの集めた聖歌や民謡を使った作品をリードに委嘱したことによる。これがリードと、彼の代表作となった音楽に特徴的な「アルメニア」というエッセンスとの邂逅である。
民謡を用いた「アルメニアン・ダンス」は1972年、賛美歌を用いた「エルサレム讃歌」は1987年の作品。前者に比べると、後者の方がストイックな音楽になっているのは言うまでもない。原題は“Prise Jerusalem!”であり、他の邦訳もあるのだが、最もポピュラーな訳は「エルサレム讃歌」だろう。
初演はビージャン指揮のイリノイ大学シンフォニックバンドによって、1987年の復活祭の日曜日に行われた。


構成は序奏、主題、変奏、フイナーレとなっており、変奏は全部で5つ。
賛美歌のテーマが序奏で朗々と歌われ、カ強く、劇的に始まる。その劇的なテーマが段々と静かになり、主題提示部に入り、木管楽器を中心に、美しい主題が奏でられる。この荘厳な美しさを持つ主題は、弦楽器のない吹奏楽という形態では、いっそうその厳格さを増す。艶やかな響きはないが、どこまでも緊張感をたたえ、禁欲的な響きが生まれるのだ。
第1変奏では、主題は細やかな動きで現れる。古典的、さらに言えば古楽的・バロック以前の響きだ。第2変奏では木管楽器とハープによる、やさしくなめらかな族律が奏でられる。第3変奏は金管楽器を中心とした、躍動感のある情熱的な変奏曲。切れ目無く続く第4変奏は、動的な第3変奏とうってかわって、静的なカデンツア風の曲になっている。第5変奏は、堅実な構造を持つフーガ風の曲である。変奏は徐々に興奮を高め、そのままフイナーレへ入る。神々しいファンファーレが鳴り響き、音はやむことなく、感動的に曲を結ぶ。
この曲の魅力は、曲全体を通して、「復活」というテーマが非常に厳格かつ感動的に描き出されていることだ。
吹奏楽という形態の持つ音の響きは、ホルストの組曲のように素朴な魅力があるのはもちろん、管楽器のあの自然倍音列のみで構成される純粋な音が集まった、音圧のパワフルな魅力というものがある。このシンプルな音色と、その集合体のパワーが、厳かな様子の表現や、輝かしい祝祭的な感動を作り出すことに適していると思うのだ。
序奏では「復活」の奇跡に震憾する大地と人々が描かれ、フィナーレでは「復活」の奇跡を序奏以上に輝かしく讃える。ヴァリエーション自体は特に描写的なものではなく、シンプルな試みだと思うのだが、それでもフーガやカノンといった古典的な形式を取り入れて、厳格な雰囲気を演出する一助となっている。リードの才能と職人技が感じられる。
吹奏楽という形態による、その特有のサウンドが十二分に生かされ、吹奏楽による芸術音楽作品としての魅力が詰まっている音楽だ。クライマックスに、怒涛のように押し寄せる音の感動。音の洪水が押し寄せるクラシック曲は数あれど、この響きだからこそ意味がある、吹奏楽の音だからこそ表すことの出来る、「復活」の感動が押し寄せてくる音楽は、管弦楽とはまた違った圧倒的な感覚を、聴く者に深く印象付けるだろう。
「吹奏楽の感動」を味わい尽くしたい。この感動は吹奏楽だからこそ、リードだからこそのものだ。

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