ベルリオーズ 幻想交響曲:最狂の恋心

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ベルリオーズ:幻想交響曲

ベルリオーズ 幻想交響曲 作品14


1830年に作曲された「幻想交響曲」は、その後の交響曲に最も影響を与えたと言っても過言ではないだろう。
ベートーヴェンの第九が作曲されたのが1824年だということを考えると、ベルリオーズの才能がうかがわれる。
「ある芸術家の生涯の挿話」という副題の付いているこの曲は、あくまで古典的な交響曲の形式を生かした上で、固定楽想(idée fixe)という主題をもとに、標題的意味のある交響曲として創り上げられたものである。
もっとわかりやすく言うと、熱烈な片思いをしているベルリオーズが、恋の相手のフレーズ(固定楽想)っていうのを作って、それを色んな楽章で色んな風に登場させ、恋する芸術家の空想エピソードを交響曲にしている、ということだ。
第1楽章「夢・情熱」、第2楽章「舞踏会」、第3楽章「野の風景」
第4楽章「断頭台への行進」、第5楽章「サバトの夜の夢」という標題がある。
異常に敏感で、豊かな空想力に恵まれた若い芸術家が恋に破れ、深い絶望に陥り、阿片を飲む。しかし、毒薬は彼を殺すには弱すぎた。彼は奇怪な幻想を伴う夢に投げ込まれ、その中で彼の感覚や情緒や記憶が、彼の心を通過していくとき、それは音楽に変えられる。彼女(=恋の相手)はある旋律、固定楽想となって、繰り返し繰り返し、いつまでも彼につきまとう。
といったことが、冒頭に書いてある。これは筋書きではないが、ある芸術家(ベルリオーズ自身)の、あまりに深すぎた片思いによる幻想の情景を、劇的に描き出した、壮大なスケールの交響曲なのだ。


管弦楽法から言っても、イングリッシュ・ホルン、ヴィオラなどが上手く生かされた響きを持ち、E♭管クラリネット、コルネット、オフィクレイドなどの新しい管楽器を用いたり、ハープが複数台、4本のファゴット、4人のティンパニ奏者、鐘の使用、コル・レーニョ奏法など、今までの交響曲とは全く異なるスタイルである。
また、「固定楽想」という手段も、リストの交響詩や、ワーグナーの歌劇の指導動機などの先例である。


第1楽章「夢・情熱」、ある音楽家が、恋人と出会う以前の茫然たる渇き・憂鬱・憧れ・あてのない喜びを思い出す。そして彼女から受けた爆発的な恋愛、激しい恋の熱情がよみがえる。悩み、苦しみ、燃えるような嫉妬、狂うような心、やさしさへの復帰、宗教的な慰め。
フルートと第1ヴァイオリンが恋人の姿を表す固定楽想を奏でる。
第2楽章「舞踏会」、華やかな宴のどよめきの中、彼は再び恋人に出会う。
中間部は恋人の姿(固定楽想)をはっきりととらえられる。
第3楽章「野の風景」、ある夏の夕、彼はふたりの牧人が角笛で羊飼いの歌を奏でるのを聴く。美しいデュエット、風景、そよ風、梢、ようやく感じられる希望、それら全てが彼の心を安らがせる。だが突然、彼女のことが思い返される。「もし彼女がそむき去ったら?」暗い予感が彼に満ちていく。牧人がひとりで角笛を吹く…その答えは……落陽………遠雷…………孤独……………静寂。
イングリッシュ・ホルン、オーボエの掛け合い、角笛(ホルン)の響き。固定楽想が現れると、風と共に激しい心の乱れ。
第4楽章「断頭台への行進」、彼は恋人を殺す夢を見る。死刑を宣告され、刑場へひかれる。その行進は、あるときは陰鬱に、あるときは荒々しく、あるときは厳粛に、あるときは華々しく、重い足音が続く。最後に固定楽想が現れるが、一瞬で消える。最後の愛の思いは、生命を絶つ斧の一閃に断ち切られる。
独特なリズムのティンパニ、ミュートホルンが陰鬱な気分を出す。金管楽器のグロテスクで華やかな行進、クラリネットが固定楽想を奏で、トゥッティで一斉に断頭。恋人の幻は太鼓の音と共に消えていく。
第5楽章「サバトの夜の夢」、彼は悪夢の饗宴にて、彼を葬る悪魔や魔法使いに囲まれる。うなり声、叫び声、不気味な笑い声がこだまする中、彼は恋人の旋律を聴く。しかし、そこにはかつての高貴さ、優雅さ、つつましさはない。俗悪で奇怪ないやらしい魔女の舞踏になっている。魔女の饗宴に彼女が現れ、サバトのオルギアに加わる彼女は魔女たちに歓喜の挨拶と共に受け入れられる。弔いの鐘、「怒りの日」を擬した滑稽な旋律。それは魔女のロンドと入り交じる。
サバトの夜、固定楽想を基にした、クラリネットの奇妙な和音の舞曲。悪魔の歓声、鐘の音。木管の奇声、不気味なコル・レーニョ、踊りはますます激しくなっていく。


どこをとっても、美しい音楽。だがそこから感じるベルリオーズの精神は尋常ではない。
かなわない恋の想い、それは憎しみに変わる。情熱は燃え上がり、狂気に変わる。
恋うている相手を旋律化するところなどはかわいらしくもあるが、幻想ならなんだってできてしまう。
彼女を殺して、自分も死刑。ありがちな狂気、しかしそれにとどまらない彼は、魔女の饗宴に彼女(の旋律)を登場させる。
恐ろしい程の憎しみと陵辱。自らを弔う鐘の音。全ては「ある芸術家」の幻想である。
恋愛感情はこれ程にも人間を狂わせられるのか。


ちなみに、ベルリオーズはスミンソンという女性に熱烈な恋をして、それに破れてこの曲を作曲した。
その後違う女性と結婚目前まで行き、またも恋破れる。
しかし、その翌年、幻想交響曲の再演を聴きに来たスミンソンと再会。今度は彼女も受け入れ、結婚。
なんだ、結局うまくいってるじゃないか!!
つまりは、それほどの名曲だということです。

ベルリオーズ:幻想交響曲 ベルリオーズ:幻想交響曲
アバド(クラウディオ),ベルリオーズ,シカゴ交響楽団

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