リスト 巡礼の年 第2年「イタリア」:芸術世界の混沌

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リスト/巡礼の年:第2年「イタリア」

リスト 巡礼の年 第2年「イタリア」


1837年から、リストはイタリア旅行に出かける。
その時に出会った文学・絵画からインスピレーションを受けて作られたピアノ曲集が、この巡礼の年:第2年「イタリア」である。
第1年「スイス」の「オーベルマンの谷」、第2年「イタリア」の「ソナタ風幻想曲:『ダンテを読んで』」、第3年の「エステ荘の噴水」は特に有名だ。
リスト自身、「ラファエロとミケランジェロがモーツァルト、ベートーヴェンを理解させる手助けとなり、ピサノとベアト、フランシアがアレグリ、マルチェッロを理解させる」と手紙にしたためているように、音楽以外の芸術からの印象が、リスト独自の音楽世界を広げることとなったのは言うまでもない。


この作品は標題のある7曲で構成されている。ラファエロの「婚礼」に基づく第1曲「婚礼」では、マリアが中心に位置し、5人の処女に祝福されながら僧侶から指輪を受け取る、という穏やかで厳粛な結婚式を描く。静かだが喜びにあふれ、ドラマティックな曲だ。


第2曲「もの思いに沈む人」は、フィレンツェ、ロレンツォ・デ・メディチの墓にミケランジェロが刻んだ彫刻と詩がモチーフだ。「私は眠りに感謝する。石で造られしことを、さらに感謝する。地上に不正と恥辱がある限り。見ぬこと、感じぬことこそ幸い。私を目覚めさせることなかれ、声ひそかに語り給え」とあるように、どこまでも重く、暗い。


続く第3曲「サルヴァトーレ・ローザのカンツォネッタ」は明るい行進曲風の曲だ。
Vado ben spesso cangiando loco ma non so mai cangiar desio
Sempre L’istesso sara il mio fuoco
(「私はよく場所を変えるが、愛の炎は変わらない」)という詩を書いた冒険家としてのサルヴァトール・ローザ、また自画像がリスト自身に似ていると言われる、画家としてのサルヴァトール・ローザ。そしてリストが編曲して用いたこの曲の原作者、ジョヴァンニ・ボノンチーニ。彼らへの印象である。


ここから3曲「フランチェスコ・ペトラルカのソネット第47番」「同第104番」「同第123番」である。その名の通り、フランチェスコ・ペトラルカのソネットを基にしている。47番では恋の希望と苦痛、104番では「朽ち果てようと願いながら、助けを求め自らを憎みつつ、私は他人を熱愛する。悲しみに生き、泣きながら笑う、死ぬも生きるも嫌だ。こうなったのも、愛しい人よ、貴女のせい」とあるように、フォルテで表現される強い感情が全体に渡り、最後は静かに諦念に沈む。123番では、「天使のような、きらめく美しさ、あの人を思い出すと、私の心は高鳴り痛む」とあるように、愛する者は天使になって、優美に幕を閉じる。


最後の「ダンテを読んで」は、完成度が高く、単独で演奏されることも多い15分程の曲。巡礼の年 第2年「イタリア」のメインは2つ、1つは3曲のペトラルカのソネットで、もう1つはこのダンテだ。リストでダンテというと、「ダンテの神曲による交響曲」を思い浮かべるが、この幻想曲は地獄篇、特に「フランチェスカ・ダ・リミニ」を主なモティーフにしている。地獄篇の情景と心の葛藤、壮大なスケールと絶妙なクライマックスが、輝かしく、美しい。またこの曲を聴くときは、「ソナタ」ではなく「ソナタ風」であるところも注目したい。


ジャンルは違うが、芸術家リストがイタリアの芸術家たちから受け取った印象は、自然や宗教からの霊感とは異なり、後者のものが世界を広げ解放するなら、前者は一層混沌へと導くものかもしれない。これが単に「旅行記」としての作品ではなく、その混沌によって、リストの世界がより一層豊饒になった作品であるということが、傑作の理由と言えよう。

リスト/巡礼の年:第2年「イタリア」 リスト/巡礼の年:第2年「イタリア」
ブレンデル(アルフレッド),リスト

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