モーツァルト 歌劇「魔笛」:歴史的ポップスとライヴ

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モーツァルト 歌劇「魔笛」


「ボクノオンガク」記念すべき第100回目のエントリー、歌劇「魔笛」は、言わずと知れたモーツァルトの残した最後のオペラである。
モーツァルトの亡くなった1791年の作品で、晩年金策に明け暮れていた彼に、劇団の興行師で自身も俳優のシカネーダーが、自身の台本で彼に作曲を依頼したものだ。
モーツァルトとシカネーダーはザルツブルク時代の友人であり、宮廷で演ぜられるヘンデルらのイタリア語のオペラが一般的だった当時のドイツで、「ドイツの人々のための、ドイツ語による作品を!」と結託し、この作品が作られた。
その明快な旋律と子供にもわかるおとぎ話のようなストーリーは世界中で愛され、オペラ初心者にはもってこいの作品だろう。
何より、この作品は楽しい。
当時のドイツの一般人にも、宮廷人にも、現代に生きる我々にも、その楽しさは変わらずに伝わる。
「音楽の楽しさ」こそ、このオペラの主題の1つであろう「音楽の力」に、大きく関わっているものに違いない。


この曲がなぜこれほど楽しいのかというと、これは音楽芸術というより、もはや現代のミュージカル、さらに言えばポップスのような作品だからだ。
オペラ=総合芸術という概念は、ひとまず置いておいて、この作品の楽しさをもっと軽い視点で見てみよう。
まず第1幕パパゲーノのアリア「私は鳥刺し(Der Vogelfänger bin ich ja)」、いかにもモーツァルトくさい(あえて「くさい」と言わせてもらう。恐らくモーツァルト嫌いな人はここが一番いやなのだろうから…)僕が最も好きな曲だが、序盤から愉快極まりない。
本当に愉快な旋律を、パパゲーノがパンフルートを持って踊りながら3回歌うのだが、自筆譜には3番の歌詞が書かれていないという。
初演でパパゲーノを演じたのはシカネーダー本人なのだが、恐らくここは彼のユーモアをきかせた即興で、聴衆を楽しませていたのだろう。
例えば僕がパパゲーノなら、そう、明日の日本公演では「やあやあ私は鳩刺し稼業(Der Taubefänger bin ich ja)…」などとね。
同じくパパゲーノ、映画「アマデウス」の衝撃シーンでおなじみ、第2幕のアリア「可愛い娘か女房か(Ein Mädchen oder Weibchen wünscht Papageno sich!)」もそうだろう。
もし明日の公演が夜なら…おっとこの辺にしておこうか。


「魔笛」で忘れてならないのは、やはり夜の女王のアリアだ。
第2幕「復讐は地獄のように(Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen)」で、フルート音域を強いられる超絶技巧のコロラトゥーラ・ソプラノは、これ単独でもよく知られる曲だ。
「魔笛」を観るのはこれを聴きに行くためだと言っても過言ではないだろう。
超絶技巧を生で見る楽しみ、これはいまやクラシック音楽の枠を超えた「ライブ」の楽しみの一つだ。
夜の女王が舞台に現れたとき、特に第2幕のこのアリアの前は、客席の空気が一瞬で張り詰める。
その空気を裂いて夜の女王の声が響き渡るときの感動はひとしおだ。


“魔笛”の音には猛獣たちも踊り出す。人も動物も、生あるものの魂を揺さぶる音楽の力、その象徴が「魔笛」だ。
魔笛はその楽しさをもって、人々の心に様々な作用をもたらす。
1791年、フランス革命の2年後のことである。激動のヨーロッパにおける大衆のエンターテイメント。
フリーメイソンの思想も確かに見られるし、「愛が大切」「徳を持て」と、やや説教的というか、啓蒙的でもある。
だが思えば、「愛」「自由」「平等」などのテーマで、大衆を啓蒙していたのは、いつの時代もポップスではなかったか。
その楽しさで何かテーマを大衆に訴え、人々を集わせ、ライブ・パフォーマンスで魅せる。
オペラがオペラとしての芸術であるということの前に、「魔笛」はポップスとしての歴史を持っている。
魔笛はもちろん芸術として素晴らしいものだが、音楽が「芸術」の範疇に止まらないからこそ持っている音楽の力というのもあるのだろう。

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