ウェーベルン 弦楽四重奏のための緩徐楽章:現代発、ロマンへ思いを馳せて

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Works for String Quartet

ウェーベルン 弦楽四重奏のための緩徐楽章


シェーンベルク、ベルクに続いて、新ウィーン楽派として紹介する3人目の作曲家は、アントン・ウェーベルンだ。
彼もベルク同様、シェーンベルクの弟子のひとりで、無調と12音による音楽を展開した。
ウェーベルンの音楽は、数こそ少ないが、その内容の密度の高さと、特に後期におけるその洗練さは驚くべきものである。
この「弦楽四重奏のための緩徐楽章」(「弦楽四重奏のためのラングザマー・ザッツ」とも表記される)は、ウェーベルン初期の作品であり、1905年、彼が22歳の時の作品である。
10分もないくらいの短い作品だが、内容の実に濃い音楽だ。雰囲気としてはシェーンベルクの「浄められた夜」が短くなったような面持ちの曲である。
「月に憑かれたピエロ」を紹介したせいで新ウィーン楽派のイメージが悪くなるといけないと思い、ベルクとウェーベルンについて書くときはなるべく聴きやすいものから書こうと思っていたのだが、ベルクのヴァイコンは好みが分かれるところだろう。
その点この作品は、大体誰が聴いても素直に美しいと思える曲である。時間も長くないのでぜひとも一聴してみることをおすすめする。


伸びやかで抒情感豊かな第1主題と、生命力に溢れた第2主題の対比が、緩徐楽章に決して大げさではないが人間の感情が見える「表情」をもたらしている。
どこまで行っても終結しないような音の流れに誘われて、聴いている者もどこまでも心を遠くに遣ってしまいそうになる。
美しく、心に響く情緒深い旋律は、ウェーベルンが思いを馳せたロマン派の音楽の芳醇な香り漂う旋律。
のびのびと歌われるところは勿論、旋律と対旋律、そこにピツィカートが、時に飾りのように、時に音楽を支えるように響く、この独特の表情の変化と趣きを感じることもまた幸せである。
ウェーベルンは、オーストリアのドイツ吸収合併当時、ヒトラーの支持者であったにもかかわらず、彼の音楽はヒトラーによって頽廃音楽と看做されてしまった。
ナチスにとって必要な音楽は現代音楽ではなく、ドイツにおいて歴史と伝統のある確固たるロマン派音楽である、と。
それが原因で、ウェーベルンの生前の評判はあまり芳しいものではなかった。
だが、このウェーベルンの初期の作品は、現代にいる者から見ると、前衛的な技法や実験的な要素などはほとんど感じられず、むしろロマン派の音楽への憧憬を感じるほどである。
確かにウェーベルンの作品には、黙々と前衛を突き進むようなものが多く、その燻製のような渋さがまた彼の音楽の魅力である。
それでも、この「弦楽四重奏のための緩徐楽章」は、情感豊かで多くの人にとって聴きやすい、影の名曲だと思うのだ。
シェーンベルクから巣立ち、自身の音楽を窮めていこうとするまさにその時の作品である。師から学んだものを、今度は自身のものとして表現していこうとしたその時である。
この曲が当時演奏されることのなかったことが少し残念である。彼が冷遇されていなければ、もしかしたら音楽史は少し変わっていたかもしれない。
ウェーベルンの死から17年後、1962年に初演された。

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