ピアソラ バンドネオン協奏曲「アコンカグア」
独特のタンゴで人気の高いアストル・ピアソラは、実はバンドネオンと弦楽・打楽器のための協奏曲を作っている。
自身もバンドネオン奏者として活躍したピアソラは、自身のソロでこの曲の録音を残しており、また数少ないバンドネオンのための協奏曲であり、バンドネオン奏者はこぞって演奏するレパートリーである。
バンドネオンというと、クラシックではあまり聞かないシロモノだが、タンゴの楽団にとっては欠かせない楽器である。
ピアソラのタンゴは、正統派のタンゴとは違い、舞踏的要素がほとんどない「音楽」としてのタンゴであり、しかもピアソラの継承者もいないこともあり、タンゴと言うよりピアソラの曲はどこをどうとっても「ピアソラの音楽」なのである。
何を言いたいかというと、まあピアソラを知っただけで「タンゴ」を語ることは到底できないが、逆に言えば伝統的なタンゴでないこういったクラシカルな雰囲気の音楽にはベストマッチする、ということだ。
1楽章はタンゴのリズムを用いている。
その情熱的な律動は、舞踏ではなく、人間の心と体を揺さぶり動かすような「音楽」だ。
ピアソラ・ファンにはたまらない、洒脱で哀愁を帯びたリズミカルな旋律が、バンドネオンで奏でられる。
打楽器も炸裂し、躍動感と流動感の混じり合った、なんとも言えないピアソラ節は実に心地よい。
2楽章はアンダンテ、たっぷりと歌うバンドネオンの音色にただひたすら酔いしれるのが聴衆の仕事だ。
もしピアソラ好きなら、ここでブエノスアイレスの街でも思い浮かべるのが良いだろう。あるいは、静かな山地「アコンカグア」の星降る夜に思いを馳せて。
3楽章でもタンゴ風のリズムが現れる。
ここではよりポップスに近い小奇麗な旋律と、現代音楽のようなおぞましい雰囲気が行き来する。
最後は徐々に律動が浮き彫りになり、引き締まりながらクライマックス。
随所で見られるバンドネオンのカデンツァは見どころだ。楽器の特色上、ソリストによって音の伸ばしやクレッシェンド・デクレッシェンドの違いが本当によく出る。
バンドネオンの情熱的な魅力がたっぷり味わえるクラシカルな作品は少ないし、またピアソラの作品のほとんどはクラシック音楽とも言い難い。
だがこれは、伝統的なクラシックという世界と、情熱と哀愁のピアソラ・タンゴの、まさに出会いと言える音楽だ。
Piazzolla: Bandoneon Concerto / Oblivion / La Muerte Del Angel / 3 Tangos James Crabb Chandos |
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more