クープラン コンセール第9番「愛の肖像」:それぞれの愛

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愛人の肖像

クープラン 趣味の融合(新しいコンセール)、コンセール第9番 ホ長調「愛の肖像」


ドイツのバッハ家のように、フランス・バロックを代表する音楽一家であるクープラン家の、最も名高いフランソワ・クープランの作品である。
クープランと言ったら普通はこのフランソワのことを指す。おじのルイ・クープランと区別するときはF・クープランや大クープランなどと呼ぶこともある。
そんなクープランの代表作として、クラヴサンのための曲集やトリオ・ソナタと並んで、コンセール(合奏曲)がある。
ルイ14世の時代、無類の音楽好きであった国王は王室でよく音楽会を催した。
その音楽会のための音楽として、国王の絶大の信頼のもと作曲依頼を受けて提供されていたのが、クープランのコンセールという訳だ。
1724年に出版されたこの第9番は「新しいコンセール」集に含まれ、1~4番の「王宮のコンセール」の続編となるものである。
合奏、これは非常に漠然としていて、というのもクープランは楽器の指定をせず、コンセールの楽譜は今で言うピアノの楽譜のような二段の楽譜で書かれているのである。
つまり、クープランの付したコメントと、音域や調性、楽曲の雰囲気を考慮して楽器を決めて演奏することになるのだ。
楽器が異なると趣もまた異なる。オーボエがメインのもの、ヴァイオリンがメインのものなど、様々な違った演奏を聴く楽しみも増して大きい。


色々説明くさくなってしまったが、こういう細かな説明がなくても、曲の出だしからその美しさに感嘆の息をもらすこと間違いない。
「愛」と付いているだけに、音楽は愛の音楽であり、曲全体を通じて美しさは計り知れないし、多くあるコンセールの中でも僕のお気に入りものだ。
原題は Ritratto dell’amore とあり、「愛の肖像」や「愛人の肖像」、「恋人の肖像」などとも訳される、イタリア語で付けられている。
愛人というとちょっとあれだが、愛あるいは愛する人のポートレート集といったところで、「魅惑」や「高潔さ」、「優しさ」などの8曲からなる情景描写的な作品とも言える。
また、フランス音楽界を二分するイタリア様式とフランス様式を、それぞれの美味しいとこ取りで融合を試みようといったクープランの意図こそ、「趣味の融合」というテーマの意味である。
よくこのブログで取り上げてきた「イタリアへの憧憬」とも似ているが、ともかくクープランは、イタリア的な大胆な旋律やその巧みな展開の仕方など(とも一概には言えないけれども…)を、フランスの宮廷音楽流に取り込んだのである。
愛というのは実にイタリアらしいと言ったら言い過ぎかもしれないが、この曲から“アモーレ”を感じ取るのは、音楽を聴く大きな楽しみの1つだ。
「愛とは何か」というのは、なかなか難しい問いだが、クープランが切り取った“アモーレ”の様々な肖像で、愛の音楽の美しさに触れることはできる。
受け手の問題、とでも言おうか、この曲からクープランがどんな風にイタリア様式を把握しかたを知ることができるのと同じように、僕はこの曲から、自分が愛をどんな風に把握しているか、少し自分を見つめることができた。
最後に、これだけ書いておいて言うのもなんだが、愛も音楽も、何も考えずに感じるのが幸福なのは間違いない。少なくとも僕にとっては、この曲をそうやって聴いている時間が至福なのだから。

愛人の肖像 愛人の肖像
ホリガー(ハインツ),バッハ,クープラン,マレ,ジャコッテ(クリスティアーヌ),セルヴェラ(マルセル)

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