ヒンデミット ウェーバーの主題による交響的変容:芸術とは

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ヒンデミット:交響曲「画家マティス」、弦楽と金管のための協奏曲

ヒンデミット ウェーバーの主題による交響的変容


ロマン派音楽からの脱却を目指し、新即物主義を推進したヒンデミットの音楽は、保守的な音楽を望むナチスによって「頽廃音楽」と見なされた。
確かにヒンデミットの音楽は取っ付きにくい印象もありるが、新古典主義寄りの作品は聞きやすいものも多く、それでいてヒンデミットの卓越した音楽性も十分感じることが出来る。
そういう意味でヒンデミット作品の中でもオススメするこの「交響的変容」は、彼の作品中最もオーケストラで演奏される機会の多い曲だ。
交響曲「画家マティス」がフルトヴェングラー/ベルリン・フィルによって初演されて成功を収めた。
それからヒンデミットはナチスからの攻撃を一層受けるようになる。「画家マティス」の演奏を禁じ、一方ヒンデミットを擁護したフルトヴェングラーはナチスと決別。
ヒンデミットはアメリカへ亡命し、そのアメリカ時代に書かれたのがこの「ウェーバーの主題による交響的変容」である。
ウェーバーの様々な作品から主題を選び、自由な交響曲風変奏曲にしたこの作品には、天才ヒンデミットの芸術への思いと才能が感じられる。


第1楽章、原曲は4手ピアノのための『8つの小品』作品60の第4曲「Allegro,tutto ben marcato」。
長閑で田園的な原曲とは対照的に、厳格でありまた神秘的にも聞こえる印象に変容している。おびただしい程の対旋律と、長調・短調を繰り返す和声、とヒンデミットらしさが1楽章からあふれている。
第2楽章は「トゥーランドット」の主題に基づく変奏曲。トゥーランドットというとプッチーニのものが名高いが、そちらではなくウェーバー自身の作曲によるもの。
全曲中で最もヒンデミットの特質が現れている楽章と言われる。巧みな対位法的処理。ラヴェルやミヨーを思わせる打楽器の効果的な使用が目立つ。
中間部では、当時流行であったジャズ風のリズムを伴って変奏され、ビッグ・バンド風の趣きも感じる。
第3楽章、原曲は4手ピアノのための『6つの小品』作品10の第2曲「Andantino con moto,Marcia maestoso」。
緩徐楽章でフルートやコール・アングレなど木管楽器の使い方が巧みである。
第4楽章は行進曲。原曲は4手ピアノのための『8つの小品』作品60の第7曲「Marcia maestoso」。
あまり行進曲という感じはしないが、導入部の後、金管楽器のファンファーレ、続いて木管楽器群の主題と、管楽器が活躍する様は幾分行進曲らしい。
吹奏楽に編曲されて4楽章のみ演奏されることもしばしばあり、またそれが妥当と感じる程に吹奏楽風な音楽。
クライマックスは爽快で心地良い疾走感が。華やかで力強い変ロ長調の和音で締めくくられる。


いわゆる「クラシック音楽好き」としては、もし当時のドイツに生まれていたと想像すると、おそらくはナチス・ドイツと同じ考えを抱かされていた、むしろ抱いていたと思う。
それほどドイツの伝統音楽は素晴らしいものだ。しかしながら、一時期ブラームスに傾倒した僕は、アンチ・ワグネリアン寄りの考えを持っていた時期もあった。
そうでありながら、ドビュッシーの印象派音楽を心から愛し続けている、というよくわからない状況も経験した。
歴史の流れで音楽は変化するように、僕自身の中でも、僕自身の歴史の流れと共に考えは変わって行く。
結局のところ、僕は現代に生まれたからこそ、ワーグナーも、ブラームスも、ドビュッシーも、ヒンデミットも、楽しむことが出来るのだ。ワーグナーとヒンデミットを同時に楽しむことができる現代は恵まれているのだろう。


伝統的なドイツ音楽に、ヒンデミットらしい「拡大された調性」を用いて変奏させる技法は、フルトヴェングラーが新進気鋭のドイツ人作曲家としてナチスの弾圧から擁護したのも納得できる、非常に高度なものに思われる。
ロマン派から更に発展し、古典復興・新しい技法を試みる、ヒンデミットが提案するこの音楽は、現代では確固たる地位を持つ、歴史と伝統の上に輝くクラシック音楽の宝と言えるだろう。

ヒンデミット:交響曲「画家マティス」、弦楽と金管のための協奏曲 ヒンデミット:交響曲「画家マティス」、弦楽と金管のための協奏曲
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