ヒンデミット トゥッティフェントヒェン組曲:きれいな音だけ詰め合わせ

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Sancta Susanna


ヒンデミット トゥッティフェントヒェン組曲


急に初夏めいてきたこの頃ですが、全く季節外れのクリスマス音楽をお送りしましょう。ヒンデミットによる子どものための劇伴音楽、「トゥッティフェントヒェン組曲」を紹介したい。
1922年、クリスマスの児童劇のために書かれた音楽であり、組曲は馴染みやすい旋律ばかりの11曲がどれも1分~2,3分の長さで、愛らしい小品集のような音楽だ。
子ども向けと侮れないのはさすが楽才あふれるヒンデミットである。シンプルなメロディーにも、ヒンデミットらしい面白さが上手く仕込まれている。
「トゥッティフェントヒェン」とは、木彫りの子、というような意味だそうで、木彫職人によって一晩限りの命を与えられたもみの木の人形の話。人形は心を持たず、外に冒険に出かけたがっている。職人の娘の心を奪って旅に出かけ、色々ないたずらを巻き起こす。市場にあるクリスマスツリーを世界中に送ってしまったり、とか。人形が死ぬと娘も死ぬという設定なのに、もみの木から落ちて死にかけたりとか。職人の弟子が助けるんだけど。人形劇場のマスターがいたずらに対抗したりとか。まあ色々やって、最終的にはハッピーエンドになる2時間の劇である。ピノキオ版くるみ割り人形のようなこの話は、劇自体が長いせいでその後忘れ去られてしまったが、音楽だけは生き残り、ヒンデミットの死後に発見された。ヒンデミットは筋書きをあまり見ずに作曲したらしい。


民謡や賛美歌と当時の現代舞踏音楽の程よいミクスチャーという感じで、新古典と言ってもいいかもしれないが、例えばストラヴィンスキーのプルチネルラ組曲などと比べると、そこまで本腰入れたものではないだろう。またヒンデミットは、サロンオーケストラ用にこの劇の音楽を、と出版社に求められた際、頑なに拒否したらしい。あくまでこれは児童劇のための音楽であり、それ以上でも以下でもない。とはいえ、こうした1曲が短い組曲でまとめられたからこそ活きるという側面もある。「クルト・ヴァイルを予見する」と指摘するライナーノートもあった。


第1曲「前奏曲」(Vorspiel: Langsam, jedoch fließend)、弦楽による美しく優しい三拍子の導入。わかりやすく幕開けを告げる。
第2曲「歌」(Lied: Leicht bewegt)、ホルンと弦楽のピチカートから始まる。かわいいですね。木管も風がそよぐよう。
第3曲「間奏曲」(Intermezzo: Munter)
オーボエの旋律が愉快な舞踊風音楽。技巧的なクラリネットに引き継がれる。この曲に限らず、ちょいちょいテクニカルな旋律が入るところが面白い。
第4曲「歌」(Lied: Langsam)、ホルン、クラリネットで童謡の「山の音楽家」が奏でられる。この有名な曲もやや旋法的なアレンジがされたりして、楽しい。
第5曲「行進曲」(Marsch: Nicht schnell)、速過ぎずということで、ドコドコ大太鼓も鳴り響く勇壮なマーチ。トランペットも明快に入ってくる。小太鼓は軽やか。少し奇をてらったメロディも乙なもの。
第6曲「人形劇場の音楽」(Musik zum Kaspertheater: Lustig)、これは良い曲だ。グリーグやビゼーの劇伴を彷彿とさせるフルート、そしてオーボエ。可愛らしい2拍子系の踊り。
第7曲「木の人形の踊り」(Tanz der Holzpuppen: Allegretto)は最も有名な曲で、後にピアノ版も出た。恥も外聞もなく、どう聴いてもドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」のパクリ。いいんです別に。打楽器もかわいい。木の音を鳴らしたり、ジャズ風の旋律に重なるグロッケンもいい。決めに入るティンパニもおいしい。ネットで検索したら長野のアマオケがアンコールにやったという情報が出てきた。いい仕事してますねえ。
第8曲「歌」(Lied: Langsam)、哀愁漂うヘ長調の美メロ。満を持してのヴァイオリン・ソロが登場。続いて遠くでなるようなトランペット・ソロも美しい。
第9曲「メロドラマ」(Melodram: Schnell – Sehr langsam – langsam – sehr langsam)、ここでも山の音楽家風の主題が。これは何かのテーマ、固定楽想なのだろうか。テンポの変化はここに書いてある通りでございます。
第10曲「子守唄」(Wiegenlied: Langsam)、ここでもゆったりしたメロディが続く。低音のフルートが優しい子守唄。
第11曲「終曲」(Schlußlied: Breit, freudig)、有名な賛美歌「神の御子は今宵しも」で締め。クリスマスらしさがようやく感じられる。荘厳さは保ち、決してやり過ぎないアレンジ。子ども向けだし、このくらいが心地いい。なんてたって、本領発揮のやり過ぎアレンジを聞きたきゃ他にあるからね、ヒンデミットは。

Violin Concerto / Kammermusik 4 Op 36
Hindemith Olding Albert
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