吉松隆 朱鷺によせる哀歌:泣ける現代音楽

Spread the love

日本管弦楽名曲集

吉松隆 朱鷺によせる哀歌 作品12


現代音楽というと難解でつまらないものも多いのは事実。
吉松隆のこの作品も、わからないまま聴いていると初めはいわゆる普通の「現代音楽」という感じかもしれない。しかし、僕は初めてこれを聴いたとき、途中で思わず鳥肌が立った。そして最後には涙が出た。
美しい。吉松が描いているのは、滅び行く朱鷺の美しさ、そして滅び行く調性音楽の美しさだ。
これは1971年に能登で捕獲された本州最後のトキ“能里”の死に触発されて、1977年から1980年にかけて吉松が作曲した、弦楽合奏とピアノのための作品である。
吉松の出世作でもある。舞台上の楽器配置も面白い。左右の弦楽は朱鷺の両翼を、中央のピアノは朱鷺の頭を、低弦が尾を表している。
この徹底ぶり。冒頭、奏でる音は朱鷺の鳴き声を模している。また、羽音と思しき音もある。ポルタメントで奏される弦楽器の音は、まさしく“哀歌”である。悲しみを帯びている。その悲しみがなんと愛おしく、美しいことか……。
不協和音なのに美しいと感じるのは、不協和音ではあってもシンプルでいて、自然界に敵対しない音がするからだろう。また雅楽のような響きが、日本人にとって無理のない響きとして、すっと耳に入っていく。
3部構成で10分ほどの長さ。2部の即興風なピアノが加わってからが佳境に入る。


僕は新潟生まれなので、どうしても朱鷺には少し思い入れというか、「われらの」という特別な思いがある。実際は佐渡島に保護センターがあるので、遠いのだが、ローカルニュースでも朱鷺の話題が多い県だった。この間も新潟に行った際は「朱鷺メッセ」という建物に用があって行った。
幼い頃、僕はドラえもんの映画「のび太の日本誕生」で、太古の日本に行ったのび太たちが大空を舞う朱鷺を見るというシーンを見て、非常に印象に残っている。
また、小学生の頃、担任の先生の幼い頃の話で、家のすぐ近くに朱鷺が飛んできたという話を耳にしたりもした。僕の中で、想像の朱鷺の姿は確実に育まれていったし、写真や映像を見れば、それはまるで自分の(故郷の、あるいは日本の)誇りであるような気がしていたものだ。
吉松自身、朱鷺が空を舞う写真をはじめてみたとき、泣きそうなくらい美しかった、この鳥の悲しい歌が空で鳴り続けているようだ、と述べている。
朱鷺は、その大きさもあって、飛んでいる絵が非常に美しい。またその淡い色合いも、筆舌に尽くし難いものがある。
その鳥は音楽で言えば、吉松にとっては、滅び行く調性音楽だったのだろう。前衛音楽の技法ばかりが先に進み、音楽の真の美しさというものが忘れ去られていく中、圧倒的に熱いテーマと、「感情に届く」美しさを持った音楽を、吉松は提案した。
クライマックス、引き裂かれるような鳴き声、ピアノの和音が重なる。徐々に盛り上がっていくと、極点で下降のポルタメント。これは泣ける。ここだけは、もう体感していただかないとどうしようもない。
現代音楽で、心から感動できるものに出会えるというのは、なかなか珍しいことだ。ぜひ、この印象的な響きと感動を味わってほしい。

日本管弦楽名曲集 日本管弦楽名曲集
外山雄三,伊福部昭,芥川也寸志,小山清茂,吉松隆,沼尻竜典,東京都交響楽団,川本嘉子,古川展生,金崎美和子

Naxos
売り上げランキング : 3073

Amazonで詳しく見る by AZlink


ここまで読んでくださった方、この文章はお役に立ちましたか? もしよろしければ、焼き芋のショパン、じゃなくて干し芋のリストを見ていただけますか? ブログ著者を応援してくださる方、まるでルドルフ大公のようなパトロンになってくださる方、なにとぞお恵みを……。アマギフ15円から送れます、皆様の個人情報が僕に通知されることはありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。励みになります。ほしいものリストはこちら

Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

にほんブログ村 クラシックブログへ にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ 
↑もっとちゃんとしたクラシック音楽鑑賞記事を読みたい方は上のリンクへどうぞ。たくさんありますよ。

Spread the love

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください