イザイ 悲劇的な詩:協奏曲という名の花は……

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イザイ 悲劇的な詩 ニ短調 作品12


イザイの作品についてブログに書くのは2010年に詩曲「糸車に向かいて」を取り上げた以来である。12年も前となると、なぜこの曲について書いたのかもあまり覚えていないし(多分コーガンのCDで聴いて気に入ったか何かだろう)、あまり内容も濃くないのだけども、一昨年フランクのヴァイオリン・ソナタについて書いたときには結構イザイについて触れているので、ぜひ読んでいただきたい。


最近ネットでヴァイオリンとピアノのどっちをよく聴く?みたいな話題があって、前回フンメルの「ピアノとヴァイオリンのための協奏曲」を取り上げた僕もちょっと気になったのだけど、結局詳しく見なかったなあ。僕自身はピアノは弾くけどヴァイオリンは弾かないので、どうしてもヴァイオリンよりもピアノの方に寄ってしまう。でもどっちも好きです。
それでも、長くヴァイオリンを弾いている人にとってはお馴染みだったり、ヴァイオリン学習者が皆通る曲、のような「ヴァイオリン界隈の常識」というものには疎いので、ある曲がどのくらい有名なのかとか、わからないことも多い。
そういう意味では、イザイのこの「悲劇的な詩」も、どの程度の知名度があるかは僕にとっては謎である。


ウジェーヌ・イザイ(1858-1931)は名ヴァイオリニストであり作曲もしたが、作品についてはまだ全集もなく、さほど研究も進んでいないそうである。この「悲劇的な詩」、あるいは「悲劇的詩曲」とも書かれるが、これはイザイ初となるヴァイオリンとオーケストラのための曲。1892-96年頃に書かれ、1902年頃にオーケストレーションされた。
「詩」(Poème)はイザイの作曲活動にとって重要なものだったことは、彼が多くの「詩」と題した曲を残していることからもわかる。ヴァイオリンとオーケストラの他に、チェロ、2本のヴァイオリン、ヴァイオリンとチェロ、弦楽四重奏などをフィーチャーし、オーケストラの伴奏を伴った形の「詩曲」は全8曲あり、この「悲劇的な詩」作品12が第1番にあたる。ちなみに第2番にあたるのが、12年前に書いた詩曲「糸車に向かいて」作品13である。他にも「冬の歌」や「去年の雪」や「夜のハーモニー」など素敵な副題の曲がある。


悲劇的な詩は「ロミオとジュリエット」に触発された作品である。クラシック音楽にもロメジュリ関連作品は多いが、イザイの詩曲もそのリストに加えてもらおう。といっても、初めのTrès modéré(soutenu et calme)は、二人の死の瞬間で、その後のGrave et Lent(Scène funèbre)は葬送のシーン。「悲劇的な詩」というタイトルに相応しい、悲劇的な場面のみで構成されている。
死の瞬間の悲しみと、葬儀での悲しみというのは、似て非なるものであって、それぞれの情景描写がヴァイオリンの美しい歌と非常に技巧的なパッセージをもってしてなされる訳だ。オーケストラも劇的で効果的である。例えばオペラで言うところの、悲しみのアリアを朗々と歌い終わった後に悲嘆に暮れて佇む歌手、その感情をこれでもかと煽るようなあの激情的なオーケストラ伴奏、そういう雰囲気を味わえる。
僕は聴いてすぐにショーソンの詩曲を思い出した。後になって知ったことだが、イザイのこの「悲劇的な詩」はショーソンの「詩曲」を生むきっかけになったそうだ。自称ショーソン好きの僕としては全く知らなかったので驚いた。ショーソンの詩曲に関する文章にはあまり出てこないが、イザイの悲劇的な詩に関する文章ではよく書かれている。3年前にショーソンの詩曲について書いた記事は↓、ここにも載せられたら良かったなあ。フレーズそのものも、あの特徴的な重音もオクターブもトリルも、とても近いものがある。

それ以上に、この「ヴァイオリンとオーケストラのための詩曲」という様式が、要は「3楽章のヴァイオリン協奏曲」というものに違和感のあったショーソンにはとても好都合だったのだろう。ドイツの作曲家にとっての幻想曲のようなものかしら。形式から自由になり、文学に寄り添った音楽。イザイもショーソンも、実質協奏曲なのだが、協奏曲と付けたくはなかった。そう、わたしたちが協奏曲と呼んでいるあの音楽は、他のどんな名前で呼んでも、同じようにいい香りがするの……詩曲と名前を変えることに成功した19世紀末の音楽家たちにはハッピーエンドが待っていた訳だ。ショーソンの詩曲はイザイの詩曲の弟分であり、アンサーでもある。
そういう意味で、僕の大好きなショーソンの詩曲の「生みの親」的なイザイの詩曲には特別な眼差しを送っている、つもりだ。12年前にイザイの詩曲に触れたのも何かの縁かもしれない。もっともっと色々聴いて楽しみたい。8曲まとまった録音は見当たらないが、いずれそういうコンセプトの録音も出てくるだろうと信じている。その中でも第1番だけあって、悲劇的な詩は録音が豊富だ。特に21世紀に入ってから、オーケストラ伴奏でもピアノ伴奏でも、録音がぐっと増えている。これは全詩曲集録音も希望を持っていいだろう。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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