ヨハン・シュトラウスⅡ世 トリッチ・トラッチ・ポルカ 作品214
このブログは同じ作曲家を何度取り上げているかで、僕の好きな作曲家が誰かというのがある程度計れるのだが、4度目の登場となるヨハン・シュトラウスⅡ世は、やはり僕のお気に入りの作曲家なのだ。
そして、シュトラウスⅡ世は、短くて楽しい曲を数多く残している。紹介したい曲がたくさんあるのも不思議ではないはずだ。
ふとクラシック関係の本を読んでいる時に、この曲について「シュトラウスのおばさん観」という言葉が現れ、思わず笑ってしまった。
「おばさん観」なんていう言葉は初めて見た。しかし確かに「おばさん」は観察対象としては興味深いものだ。
それは普通芸術にならないと思うのだが、そんなどうでもよさそうなものまで、素敵な音楽としてクリエイトしたシュトラウスⅡ世はもっと素敵ではないか。
とかく日本人は「大阪のおばちゃん」をネタにすることが多いが、まあ大阪の特殊性はともかく、おばちゃんの性質というのは、やはり洋の東西を問わず普遍的な芸術性を持っているのだ。いや冗談だが。
この「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は、非常に有名な曲で、日本では運動会の音楽というイメージであろう。
「トリッチ・トラッチ」(Tritsch-Tratsch)というドイツ語は、「ぺちゃくちゃ」、「うわさ話」、「(女の)おしゃべり」というような意味。
子どものかけっこにぴったりな音楽は、実はおばちゃんたちのおしゃべりだというのだから面白い。運動会に来ている保護者のことを上手く表現している、とでも言おうか。
オーストリアの役者で喜劇作家ネストロイによる同名の喜劇“Der Tritsch-tratsch”とかけたという説もあるが、真相は不明。
シュトラウスⅡ世の最初の妻が飼っていたプードルも「トリッチ・トラッチ」という名であった。よく吠えたのだろう。
音楽はシュトラウスらしい軽快なポルカ。いつ聴いても楽しいものだ。
第一主題の、2音ずつ進む旋律で、オクターブ下の合いの手が実に小気味良い。これは音楽的には良くできた相槌だろう。本当に話を聞いているのかもあやしいが、テンポよく話が進むのはおばちゃんたちの立ち話。洗濯の合間、買い物途中、短い時間に内容たっぷり。
クープランも同じような趣旨の曲(おしゃべり、美しいおしゃべり女)がある。パリもウィーンも、こういうのは万国共通なのだろう。
シュトラウスのおばさん観、これはシュトラウス自身のおばさん観でもあり、そして彼が見た「男から見たおばさんの印象」という普遍的なテーマでもある。
ゴシップばっかり、小うるさいし、ちょっと下品だなあ、という皮肉も込めつつ、まあまあ楽しげで結構なことで、と楽しそうに話す女たちを横目に書いたものか。
なぜ「おばさん」と決め付けるのか! そう言われると苦しいが、シュトラウスのポルカ「おしゃべりなかわいい口」という曲と聞き比べてみるのも良いかもしれない。おしゃべりにしても、おばさんと、若い女性とでは、かわいさという点で違うのではないか? まあ、あまり言うと失礼なことを書くかもしれないから、このあたりにしておこう。
そういえば、この曲のスコアの表紙には、井戸端会議中のおばさんたちが描かれているので、見てみて欲しい。
ちなみに歌もある。ウィーン少年合唱団の十八番でもあり、今年のニューイヤー・コンサートでも演奏されたのは記憶に新しい。
聴いていて単純に楽しい。楽しく愉快な女のおしゃべり。彼女らの機嫌が良いのは、男にとっても厄介がなくて一番だ。
ニューイヤー・コンサート2012 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ヤンソンス(マリス),ヤンソンス(マリス),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 SMJ |
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more