ベルリオーズ 交響曲「イタリアのハロルド」:主人公の存在

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ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

ベルリオーズ 交響曲「イタリアのハロルド」作品16


かつてダンディの「フランス山人の歌による交響曲」を紹介したときにも似たようなことを書いたが、この「イタリアのハロルド」も、やや特殊な音楽構成のために今ひとつ恵まれない作品である。しかし、無名作曲家の作品ではなく、かのベルリオーズの曲であり、埋もれてしまうことはないだけ幸運だ。同じくベルリオーズの名曲「幻想交響曲」と比べるとやや少ないが、演奏機会や録音もある。そして、これは「幻想交響曲」と肩を並べる、真の名曲に違いない。
ヴィオラ独奏付きの交響曲という、極めて珍しい形式を取るこの曲は、ベルリオーズが「幻想交響曲」で成功を収め、オペラの作曲などに手をかけ始めた頃に、あのパガニーニによって依頼されたものと言われている。
パガニーニはヴァイオリニストとして名高いが、彼は素晴らしいストラディバリウスのヴィオラを手に入れたことをきっかけに、ベルリオーズにヴィオラのための曲を作るよう依頼したのだそうだ。
「幻想交響曲」に感動したパガニーニは、ベルリオーズにヴィオラをぶいぶい言わす曲を作ってほしいと思っていたそうだが、ベルリオーズが提出した曲は、パガニーニのヴィルトゥオーゾ的お眼鏡にかなうものではなかった。
結局この話は水に流れたのだが、ベルリオーズは彼のために用意した曲をもう一度作り直し、ヴィオラ付きの交響曲という形で世に送り出した。
後にこの曲を聴いて、やはりベルリオーズの音楽性に感動したパガニーニは、ベルリオーズに大金を送ったという。この曲の成功も含め、ベルリオーズの家計はうるおい、無事に長男も生まれ、順風満帆な芸術人生のまさに始まりといったところだろう。
ヴィオラ――この楽器が日の目を浴びる機会は、他の楽器、主にヴァイオリンとチェロと比較すると、本当に数少ない。
そんな状況で、この「イタリアのハロルド」はヴィオラが活躍する名曲中の名曲。ヴィオラ好きでもそうでなくても、「幻想交響曲」と並んで、ベルリオーズの音楽を堪能することができるだろう。


バイロンの長編詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」の場面をテーマにして、4楽章それぞれに副題が付いている。
この物語からのインスピレーションや、この物語の人気にあやかろうとしたということもあるだろうが、それ以上にこの曲は、ベルリオーズ自身の訪れたイタリアにて、物語の主人公と同じく、様々なところへ赴き、自然や人々と出会ったベルリオーズ自身の印象を音楽にしたものとして捉えるべきだろう。
ベルリオーズはローマ賞を受賞した際、物語の舞台であるアブルッツィ地方を実際に訪れている。
第1楽章は「山におけるハロルド、憂愁、幸福と歓喜の場面」とある。ヴィオラは息の長いメロディーを奏し、技術的であるというよりは、感情に重きが置かれているようだ。
いわゆる「ハロルドの主題」と呼ばれるテーマがヴィオラによって弾かれ、それは曲全体を通して様々に変化し登場する。「幻想交響曲」と同じ手法だ。この「ハロルドの主題」の美しさ! 伸び伸びと、絶妙な“音域”と“音色”で演奏されるこのテーマに魅了されて、この曲を好きになる人は多いだろう。この主題には、受け取り方は人それぞれだが、確かに魅力的な性格・人格が現れていると思う。
第2楽章「夕べの祈祷を歌う巡礼の行列」は静かな時間、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人によせるセレナード」は幾分明るい歌・情感たっぷりな歌の時間。いずれも風景というより、情景と言うべきだ。
第4楽章「山賊の饗宴、前後の追想」、このあたりになると、ヴィオラ単独で活躍するということは少なくなり、合奏が多くなる。ヴィオラ協奏曲とは言えない所以はここらにある。
ハロルドは山賊によって殺されるのだが、それでも聴いていて楽しいのは、ベルリオーズが楽しげに山賊の宴という情景を描いているからだ。ハロルドは死んでも、主人公ベルリオーズは生きている。
楽器のテクニック云々ではなく、人間が、ベルリオーズ自身が存在する音楽に、かのヴィルトゥオーソ、パガニーニさえも賛辞を送らざるを得なかったこと、これは興味深いことだ。
それほどに、この曲は深みがある、ヴィオラにとってもすべての音楽ファンにとっても良曲なのだ。

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“ベルリオーズ 交響曲「イタリアのハロルド」:主人公の存在” への2件の返信

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