モーツァルト 交響曲第25番:高貴さと荒々しさ

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モーツァルト:交響曲第25番、第38番「プラハ」、第39番

モーツァルト 交響曲第25番 ト短調 K.183


かつて取り上げたモーツァルトの交響曲は38番の「プラハ」であり、その理由は、数多くあるモーツァルトの交響曲のうち「プラハ」には“3楽章構成”という非常に珍しい特徴がるからだった。
では、次に取り上げるこの第25番はどうかというと、これにもまた大変わかりやすい特徴がある。それは、ほとんどの交響曲が長調であるのに対して、“短調なのは25番と40番だけ”なのだ。なんとわかりやすい。
そして、映画「アマデウス」でも冒頭で用いられているし、テレビのBGMなどでも、その特徴的な短調のメロディーがインパクト大なので、よく使われているため、耳にしたことがある人が多いだろう。
モーツァルトの交響曲は全部で41曲あるが、中でも人気の高いこのト短調の25番。40番もト短調であり、そちらの方が長いので、25番は「小ト短調」などと呼ばれることもある。
ちなみにその40番は、モーツァルトの交響曲の中で1番人気と言ってもいい。2番手は41番「ジュピター」だろう。
そのツートップが君臨し、次いで晩年の35番「ハフナー」、36番「リンツ」、38番「プラハ」、39番あたりだろう。それらに負けず劣らずの人気曲が、若いころの作品である25番、29番である。
さてさて、本題の25番の話に入ろう。作曲された1773年という年は、モーツァルトが父レオポルトと共に3度目のイタリア旅行からザルツブルクに帰ってきた年である。帰ってきたのは3月で、それからこの年に作られた交響曲は、イタリア色の濃い音楽となる。イタリアという美しい芸術の都の影響は、たくさんの作曲家が経験していることで、モーツァルトも例外ではない。
しかし、7月になり、ウィーンを訪れ2か月ほど滞在すると、今度はあっという間にイタリア色を払拭し、ウィーン音楽の影響が見られた音楽作りをするようになる。その時の曲のひとつが、今回取り上げる25番だ。


この曲をどう解釈すれば良いかという問題は、これは本当に難しい。基本的にモーツァルトは、楽観的な、天から与えられた音楽であるという姿勢でだいたい良いと思うのだが、短調となるとなかなかそうもいかない。モーツァルト個人の悲しい体験や心境が現れているという説もあるし、作曲年代の近いハイドンの交響曲第39番(これもト短調で、楽器編成も近い)に影響されたという説もある。
後者の場合、ハイドンの39番はシュトゥルム・ウント・ドラング期の作品であり、それに影響されたと考えると、ある意味明解な答えが出せる。勢いのある豪快な演奏がいいだろう。色艶があるような弦楽器の音ではなく、1楽章の冒頭から、吹き荒れる嵐のごとく弾き殴るようなもの。クレンペラーの録音を聴いてみてほしい。
そして、打って変わってギャップの大きな、ゆったりと美しい2楽章。ギャップは大きいが、漫然さはない。代わりに高貴さがある。
3楽章もやはり高貴さがある。「ゆったり」はしているが、緩みがないのだ。緊張感と神々しい高貴さが、常にある。
4楽章は1楽章寄り。嵐のような激しさが、両端の楽章で現れ、この曲の疾風怒濤の印象を最後に再び強く主張するのだ。
若きモーツァルトが、心境的な理由にしろ、そうでないにしろ、これほど激しい曲調を強調しているということは、この曲の解釈でもっとも注目すべき点である。ただ、ここで僕は、モーツァルトの疾風怒濤の音楽の中にも、あるいは悲しみやもがき、苦しみという心境の中にも、いつも消えることのない高貴な印象があることを忘れてはならないと思う。
それはモーツァルトの音楽が神の贈り物だという僕の(または多くの人の)信念・信仰に反しない。こういうときの神様はすごくありがたい解決のひとつだ。これは神のきまぐれなのかもしれない。
モーツァルトという男の、自身の感情や他の作曲家との関係といった人間的な影響が、この曲の疾風怒濤の要因だとしたら、その激しさや荒々しさにもかかわらずこの曲からにじみ出る高貴さは、まさしく神の顕現ではあるまいか。

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