ヨハン・シュトラウスⅡ世 ポルカ「雷鳴と電光」:轟が生む麗しき美

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雷鳴と電光 / シュトラウス・ポルカ・マーチ集

ヨハン・シュトラウスⅡ世 ポルカ「雷鳴と電光」作品324


「雷鳴と電光」や「雷鳴と稲妻」(原題はUnter Donner und Blitz)などと呼ばれる、これまた有名なシュトラウスⅡ世のポルカ。おそらくシュトラウスⅡ世のポルカの中で一番賑やかでやかましい曲ではないか。「爆発ポルカ」とかそういうイレギュラーなものを除けば。
大太鼓の連打が雷鳴を、シンバルが光る稲妻を表していると言われる。もとはシュトラウスⅡ世が、1867年のパリ万博で、当時の最新鋭の大砲を見たことが、作曲のきっかけになったとのことだ。大砲の咆哮を聴いて思いついた音楽ということを考えると、もともと大砲の轟音と火花のイメージもあったのかもしれない。
初演はドナウ川のほとりにある舞踏会場ディアナザール。ここでは多くのシュトラウス・ファミリーの作品が初演されている。「雷鳴と電光」は、ディアナザールで活動していた芸術家たちのグループ、「宵の明星」の舞踏会のために作曲された。
「宵の明星」のための曲だったため、はじめはポルカ「流星」という名の曲として作曲に取り組んだという。そうすると、今度は星の流れる様子もイメージとしてあったのではないかと考えられる。
こういう想像をするのはきりがないし、またそこが楽しいところでもある。自分なりのイメージを持って音楽を聴く楽しさは、音楽を聴くことの醍醐味だと思う。
僕はこの曲にどういうイメージを持っているかというと、もちろん雷!と言いたいところだが、実は明確に雷の音楽だと思って聴くことはあまりない。
むしろベートーヴェンの田園交響曲や、ヴィヴァルディの四季の「夏」などの方が、自然描写としての雷をイメージして聴く。
この曲では、シュトラウス音楽らしいノリの良さや、ウィーン音楽の軽妙かつ高貴な楽しさを重んじて聴いている。これは、多くの変わった標題を持つシュトラウス・ファミリーの音楽がある一方で、これらを標題以上に特徴づける音楽性の存在を示唆するし、特にこの曲はそういう意味で、あらゆるシュトラウスのポルカの代表格のような音楽だと思う。


「雷鳴と電光」という有名な標題のおかげで、この曲が示しているものは非常にクリアーなように思われるのだが、それ以上に、この曲が名曲たる所以は、シュトラウスのメロディーメーカーとしての才能や楽器の使用の妙が、上手く発揮されているところにあると言える。
序奏の後の第一主題、アウフタクトがあってスラーのある2音の繰り返し、続いて付点のはっきりしたリズム、この対比だけでも巧みなものだ。トランペットやピッコロの音色もよく響いて活かされている。
また、管弦楽版だけでなく、ピアノ版を聴いてみていただきたい。この曲のオーケストレーションの大きな特徴である、大活躍する打楽器群が、すべて取り除かれた状態の「雷鳴と電光」では、シンプルな構成の主題の、旋律としての美しさをストレートに理解できるだろう。トリオも含めて、本当に美しいのだ。
このまことに良く出来た主題が、オーケストラでは雷鳴と電光の轟々たる状況という要因によって、その伸びやかさ・しなやかさが、メロディーの麗しさが、いっそう引き立つ。
舞踏会という場に相応しい、ある程度の気品と、ある程度のラフさを持った音楽。モーツァルトの交響曲第25番のところで、疾風怒濤の中にもにじみ出る高貴さについて書いたが、同じようなことだ。
シュトラウスⅡ世の音楽の気品は、モーツァルトのような神がかりな高貴さとは全く別ではあると思いう。しかし、この曲の美しさは、まさしくウィーンの粋、ウィーン風ポルカの魅力そのものであり、それがまた“雷鳴”と“電光”によってひときわ際立つように作られている。
また、これは少し妄言かもしれないが、僕はこの曲に、騒々しいようで、そこに切れ味の鋭い美を見るのだ。言うなればそれは日本刀の美しさのごとく、平原で人を断つ戦を内包した造形としての美。華麗なる剣の舞、そこにポルカが流れる……なんてものまでイメージが暴走してしまう。
こうしたことは美学における一つの真理ではないのか。野獣がいて、美女はさらに美しくなるのだ。僕にはここにシュトラウスのポルカの、愉快さと芸術性の極致があるようにすら思われる。

雷鳴と電光 / シュトラウス・ポルカ・マーチ集 雷鳴と電光 / シュトラウス・ポルカ・マーチ集
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,Jo.シュトラウス,J.シュトラウス,J.シュトラウス(1世),ボスコフスキー(ウィリー),シェーンヘル

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