ウェーバー ヴァイオリン・ソナタ第1番:誰が聴いても美しい

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カール・マリア・フォン・ヴェーバー 作品集 (Carl Maria von Weber : Sonatas for piano & violin / Isabelle Faust , Alexander Melnikov , Boris Faust , Wolfgang Emanuel Schmidt) [輸入盤] [日本語解説付]


ウェーバー ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ長調 作品10-1


カール・マリア・フォン・ウェーバーの話題をするのは、このブログでは実に約3年ぶり。まあこのブログでなくても、普段そんなにウェーバーの話題で盛り上がることはないのだが、これでも僕は結構ウェーバーの作品を聴いている方である。
その中でも、特に最近見直したいと思っているのは、ウェーバーの室内楽である。「魔弾の射手」をはじめとした歌劇やその序曲、協奏曲、交響曲は比較的ポピュラーだし、ウェーバー自身指揮者であったので、オーケストラ作品が佳作になるのは理解しやすい。
一方、器楽曲となると「舞踏への勧誘」が人気を独り占めしているし、室内楽はその存在すらあまり知られていない。これは惜しい事だ。
そもそもウェーバーという音楽家は、作曲家としてみると、主にクラシックを「聴く」ことを趣味としている人たちにとって、あまりメジャーな作曲家ではないように思われる。しかし、クラシックを「演奏する」ことに熱中する人たちにとっては、ウェーバーはかなり高い頻度でお世話になる作曲家なのではないだろうか。
ウェーバーの音楽は、初心者にとっても、いわゆる「譜面面」(ふめんづら、音符の並びのこと)が易しいものが多く、技術的に未熟でも「あ、ウェーバーならできそう」と思えるような曲が多いのだ。
だからと言って、決してウェーバーの音楽を軽視してはならない。また同様に、オーケストラ曲よりも構成的にシンプルな室内楽を過小評価するのも良くないことだ。
だからこそ、ウェーバーの室内楽の魅力をここで語ろうと思う。まずウェーバーの室内楽作品は、作曲当初から不遇な扱いをされていたという点に触れたい。
1809年、ウェーバーは22才でピアノ四重奏曲を完成させたが、残念なことに依頼者から出版されなかった。それを出版したのが、ベートーヴェンの友人でもあるホルン奏者ニコラウス・ジムロックである。彼はウェーバーの音楽の良き理解者で、音楽の出版社を作った人物でもある。ヴァイオリン・ソナタの出版に当たっても、ウェーバーとジムロックは相当の労力をかける羽目になる。
1810年の夏、オッフェンバッハで出版業を営む作曲家、ヨハン・アントン・アンドレから6つのヴァイオリン・ソナタの依頼が来る。中産階級の家庭音楽会向けに、中程度の難易度で作って欲しいというこの依頼は、技巧的な面でも要求が多く、しかもデットラインがかなり厳しいもので、ウェーバーはあまり気乗りもせず、非常に苦しい仕事だったらしい。
ウェーバーは「同じ数の交響曲を作るより大変だ」と言っていたようだ。そして、それだけ苦労したにもかかわらず、アンドレから、期待していたのと違うと言われて受け取りを拒否された。これにはウェーバーの苛立ちも最高潮に。


結局、ジムロックが出版する際には、「アマチュアのために作曲されたヴァイオリンのオブリガートつきのピアノのための6つの段階的ソナタ」という名前になっている。ほとんどアンドレの要望には沿っていない。
その中でも第1番は、技術的に容易な作品である。それこそ、アマチュアが演奏するには持って来いの曲だろう。演奏時間も短めの3楽章構成。他の番号のものも、2~3楽章の短めの曲ばかりだ。
1楽章のアレグロ、素朴だが屈託のない笑顔を見せる少年少女のような、無垢な美しさがある。そんな旋律が、後半では短調になって現れる。シンプルだが、わかりやすい表情の変化はまた、聴く者の心にピュアな感情を思い出させてくれる。
2楽章のロマンツェも、ウェーバーの時代の良さがにじみ出た音楽である。古典派ともロマン派とも言えない、このベル・エポック的な魅力。
そして3楽章のロンドは、奏者も聴衆も楽しい気持ちになることうけあいだ。スタッカートの旋律は、オペラにも劣らない華やかな雰囲気を演出する。
ヴァイオリンとピアノのわかりやすい掛け合い、誰が聴いても美しいと思える旋律。もちろん、初心者にも楽しめるし、一流の奏者が演奏すればぐっと深みも増す。僕のご贔屓ヴァイオリニスト、レオニード・コーガンのライブ録音などは、何度聴いても飽きない素晴らしい演奏だ。
曲名にある「アマチュアのために」というのは、アマチュアが演奏するために、という意味ではなく、アマチュアたちが聴いても楽しめるために、という意味だろう。
作品10の6曲の中で段階的な難易度はあるものの、ヴァイオリンの教材的向けといった色はほとんどない。アンドレが拒んだのもわからなくはない。これはアマチュアたちが聴いて楽しめる作品だが、アマチュアたちの演奏でこの音楽を100%隅から隅まで楽しめる作品かというと、もっともっと懐の深い芸術なのだ。
それでも、アマチュア奏者にはどんどん演奏して欲しいし、自身のレベルに合わせて楽しむこともできる、実にいい曲だと思う。6曲とも、どれもまた違った良さがあり、演奏する喜びを感じられるだろう。フルート・ソナタにも編曲されているので、フルート奏者の人もぜひ。
どんどんウェーバーの室内楽が広く知れ渡って欲しいものだ。またの機会に、別の室内楽作品を取り上げたい。

Weber: Sonatas for piano & violin - Piano Quartet Weber: Sonatas for piano & violin – Piano Quartet
Isabelle Faust and Alexander Melnikov

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