レーガー クラリネット五重奏曲:音楽よ古典に帰れ

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Clarinet Quintet & String Sextet


レーガー クラリネット五重奏曲 イ長調 作品146


さあ、今年も梅雨入りしたので、「雨の日に聴きたいクラシック」シリーズの楽曲を紹介しよう。そんなシリーズ書いたことないし、せいぜいブラームスのヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」で触れてみたくらいだが、案外「ブラームス」と「雨」という組み合わせを好むナルシストクラシック・ファンは多いのではないか。窓の外は雨、落ち着いた部屋でブラームスのレコード流しながら、文庫本片手にコーヒーなんか飲んじゃったりしたらオシャレなんじゃないですか、そういう眼鏡女子が現実にいたら嬉しくないですか?
冗談はさておき、今回取り上げる曲は、そんな雨の日にぴったりで、また同時にブラームスとも関係のある音楽である。ドイツの作曲家、マックス・レーガー(1873-1916)の晩年の傑作、クラリネット五重奏曲だ。
レーガーは多作で活動的な作曲家でシマノフスキやヒンデミット、プロコフィエフらも心酔した才能ある音楽家だが、その割に現代であまり顧みられないのは彼の作風に一因がある。ことゲルマン諸国においては時代遅れになりつつある後期ロマン派か或いは古典回帰かというところで、どっちつかずの道を彷徨うように進むレーガーは、ドビュッシーやラヴェルら印象派の登場、民族音楽に芸術を見たバルトークたちや、新しい音楽語法を目指す新ウィーン楽派の影に隠れてしまい、現代人が描く音楽史年表の表舞台に上がることはかなわなかった。
結果的に、レーガーは古典主義に回帰する音楽でかろうじて名を残す。それが最晩年のオーケストラ作品「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」であり、またその翌年の作である「クラリネット五重奏曲」である。
クラリネット五重奏曲、クラリネットと弦楽四重奏によるアンサンブル作品は、最も有名なモーツァルトの作品以降、モーツァルトの同曲に触発されたブラームスが傑作を残しているが、それほどポピュラーな演奏形式ではない。ブラームス同様、レーガーもまたモーツァルトに触発されて作曲し、このジャンルならばモーツァルト、ブラームスともう一人挙げるならばレーガーだと言えるくらい、音楽史に残る傑作である。


もう少し言えば、レーガーは、モーツァルトが友人のクラリネット奏者アントン・シュタードラーのために作曲し、ブラームスが当代きっての名クラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトのための書いたのと異なり、特に「この奏者のために」というのがない。だからかどうかは知らないが、クラリネットと弦楽器は音楽的にずいぶん対等な関係にある。
また多作であるレーガーはクラリネットのための作品も多く、3つのクラリネット・ソナタのほか小品もあり、特に初期のものはブラームスのクラリネット・ソナタに啓発されて書かれたものだ。だからモーツァルトと併せて、ブラームスからの影響もすぐに感じ取れる。
1楽章冒頭を聴けばすぐに、穏やかで棘のない音のアトモスフィア、ああ、なるほどこれはブラームスと納得できるだろう。確かにクラリネットの登場は、先人たちの作と違ってスポットライトに当てられて出てくる様子ではないが、訥訥と語るのはまさにブラームス風。とにかく和声で聞かすのは後期ロマン派の味。穏やかである分、時々ふと動きが大きくなるクラリネットには思わず息を呑む。全くと言っていいほど技巧的なものを感じない、むしろ徹底的に排除されているようだ。哲学のようにさえ思う。旋律が再びオクターブ上で現れる、そういう単純な手法ひとつひとつに、音楽っていいなあ、クラシックっていいなあと思える。
2楽章はヴィヴァーチェだが、穏やかなスケルツォ。レントラー風のリズムもある。メロディの受け渡し、特にクラリネットとチェロとの組み合わせは良い。どちらも温もりを感じる。
3楽章ラルゴ、悲しみをたたえた憧憬か。これまでの穏やかさを鑑みるとどうにも、心をかき乱されそうになる。ブラームスよりも和声の移り変わりが激しいので、リズムが際立たない楽章はなおさらその和声の動きに耳が行く。だからかえって激しく感じてしまう。クラリネットが旋律を吹き、弦奏が塊になって伴奏する部分などはめっぽう熱い。それだって、今までは対等によくよく絡み合っているからこそ、そういう古典派みたいな動きが目立つのである。
4楽章はアレグレット、主題と変奏、このジャンルはレーガーの得意。動きもあるし、和声変化も多少落ち着いており、「ブラームジアーナ」な雰囲気は纏ったまま。中間部は下降系のメロディを次々と歌い出し、哀愁もたっぷり。消えるようなフィニッシュも、さもありなん。
古典回帰、新古典主義などと言われるものには、真似をしたからこそ現れる個性というものもある。何も伝統をぶち壊すことだけが個性ではない。もちろん、レーガーにもブラームスにも楽才があったからというのは違いない。
1915年12月16日に完成と楽譜に書かれているが、レーガーがジムロック社に送ったのは1916年5月1日。その後すぐに友人のヴァイオリニスト、カール・ヴェントリングに献呈すると手紙を書いた。同年5月11日、レーガーは心筋梗塞で亡くなる。43才であった。クラリネット五重奏曲は彼の最後の完成作である。11月6日、シュトゥットガルトにて、フィリップ・ドライバッハのクラリネットとヴェントリング弦楽四重奏団によって初演された。


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