2020年3月、演奏会が続々とキャンセルになっていく中、悲しみを癒やす気持ちでフォーシェの交響曲についての記事を更新した。毒気のない、素朴な美しさを求めていたからだ。4月には、コロナ禍が去った後、演奏会が復活するのを期待して「精神性」についても記事を書いた。
11月、長く中止されていた海外オーケストラの来日公演が復活した。ウィーン・フィルは「音楽大使」として特別措置で来日し、今まさにツアー中である。喜ばしいことだが、批判も頷ける。特例で庇護される音楽があれば、特例で迫害される音楽もありえるということを、我々は歴史を学んで知っているからだ。
そして再び、僕は悲しい気持ちを癒やすために、今度はグノーの小交響曲を聴くのだ。
なんて、ちょっとカッコつけて書いちゃった感じがありますが、それこそフォーシェの交響曲と似たような、素朴な美しさに満ち溢れている。
正式名称は“Petite Symphonie pour 9 instruments à vent”、9つの管楽器のための小交響曲である。1885年の作品で、フランスのフルート奏者、ポール・タファネルが設立した管楽器のための室内楽協会に献呈された。
フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2という、18世紀後半から19世紀前半のハルモニームジークの編成に、フルートを追加した編成。ということで、交響曲であるが実質は室内楽である。
初演はタファネルの室内楽協会によって1885年4月30日に行われた。それ以降、フランスの管楽作品のレパートリーとして現代まで愛されている。
グノーの友人であったタファネルのために書かれた作品であるため、フルートが活躍する。特に2楽章のフルート・ソロは聞き所だ。
1888年に再演された際は、初演時以上に好評で、当時若きピアニストであり音楽評論家としても活動していたイシドール・フィリップは「ファウストの作曲家特有の魅力だ。ハーモニーの純度の高さ、楽器の優美さ、魅惑的な書法がある」と絶賛したようだ。
1楽章Adagio – Allegretto、古典派交響曲を思わせる音の広がり。モーツァルトよりもハイドンを思わせるような雰囲気だ。2楽章Andante cantabileは先ほども書いたが、よく歌うフルートの美しさに身を委ねよう。
3楽章Scherzo、愉快な付点のリズムに乗った、管楽合奏らしい楽しさ。4楽章Finale、軽快なリズム、爽やかだ。掛け合いでも和音でも、アンサンブルの楽しさがわかる。
ハルモニームジークの伝統に寄せてコントラバスを入れた録音もある。しかし編成上どうしても低音が膨らみがちなので、むしろその辺のバランスが取れた演奏はいっそう美しい。
グノー自身はあまり重要視していなかったようだが、というか別のオラトリオ作曲に忙しく、この曲はあくまで友人への贈り物のような扱いだったようだが、長く現代までフルート奏者はじめ管楽器奏者たちに愛されている佳作である。
疲れたときでも20分くらいの長さでサッと楽しめる、良い曲。実演もしばしばある。早く実演も普通にできるようになることを祈って。ぜひウィーン・フィルの管楽器のヴィルトゥオーゾたちの実演でも聴かせてほしいなあ。
【参考】
Blakeman, E., Taffanel: Genius of the Flute, Oxford University Press, 2005.
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more