ヴェラチーニ リコーダー・ソナタ第4番:耳を楽しませる

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ヴェラチーニ リコーダー・ソナタ第4番 変ロ長調


「音楽の第一の目的は、歌ったり演奏したり、趣味の良さや多様なアイディア、協和音や不協和音を巧みに操ることによって、耳を楽しませることである。決して知性や、理論的、抽象的な思索によってではない」
Twitterでこんなことを書いたら知性や理論を軽視しているとか言われて炎上しかねないが、これはイタリアの後期バロックの作曲家、フランチェスコ・マリア・ヴェラチーニ(1690-1768)の言葉だ。ヴァイオリニスト、指揮者としても活動し、『音楽の実践の勝利』という対位法に関する論文も書いている。上の言葉はその論文からの引用。感覚を楽しませるのか、精神活動を楽しむのか、という話題は、以前書いた「クラシック音楽における精神性」についての記事もご覧ください。


この他にもヴェラチーニは、理論に過度な信頼を置くな、そんなものに頭を悩ますくらいなら脳を持たずに生まれた方がましだ、とか、協和音の甘美さと不協和音の辛辣さは耳でなければ計れない、耳は何より優れた音楽の達人だ……など、なかなかの名言を残している。
とはいえ、こうした音楽家の話題であればなおのこと、別に理論を全否定しているのではないと、そこそこ教養があればわかってもらえるはずだが、世の中にはそうでない人もたくさんいるので、炎上するんだなあ……ああ、話が逸れたが、ヴェラチーニは例えば「自分の音楽は新しい理論やアイディアにあふれている素晴らしいものだと思いこんでいても、対位法やフーガの従来の理論を学んで自分の実践に出せるようにしなければ、聴衆にはすぐにばれて耳を満足させられず、好まれないぞ」というようなことを言っているのである。


フィレンツェに生まれたヴェラチーニ。20歳で神聖ローマ皇帝カール6世のための祭礼で自作の協奏曲を演奏したり、「悪魔のトリル」で有名なタルティーニ(1692-1770, ヴェラチーニの2つ年下)がヴェラチーニの演奏に触れた際は衝撃を受けて即帰宅し練習に励んだという逸話も残るほど、ヴァイオリンの名手だったらしい。この18世紀末に生まれたヴァイオリンの名手と言えば他にロカテッリ(1695-1764)やルクレール(1697-1764)が有名である。ロカテッリもヴェラチーニの影響を受けているし、ルクレールはロカテッリの影響を強く受けていることを考えると、ヴェラチーニの凄さも理解してもらえるのではないだろうか。
1716年、後のザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト2世(ポーランド王アウグスト3世)がヴェネツィアに来た際に作曲されたのが、ヴァイオリンまたはリコーダーと通奏低音のための12のソナタである。結果としてヴェラチーニは彼に雇われてドレスデンで宮廷音楽家として務めることになる。今回取り上げたのはその12曲のソナタの中の第4番。12曲まとまった録音は見当たらないが、それぞれ単独であればそこそこ見かける。僕はドイツのリコーダー奏者、ミヒャエル・フォルムのアルバム(上の大きい画像がリンクです)を最近聴いて、ヴェラチーニ良いなあと思い、ブログに書こうと思った次第だ。クリストフ・エールサムという奏者が1991年に録音したもの(↓)は、第1番から第6番までまとまっている。

Veracini: Sonate a flauto solo e basso


第4番変ロ長調、このソナタはまず3つの緩徐楽章が続き最後にアレグロ楽章という変則的な形式。これは第6番の、第1楽章がラルゴでその後3つのアレグロ楽章が続くという形式と対になっている。
第1楽章Largo e nobile、この冒頭の緩徐楽章の美しさが、先に挙げたヴェラチーニの言説の全てを物語っていると言っても過言ではないだろう。高貴で上品な旋律に、自然に寄り添うような優しいリコーダーの音色が合わさり、有無を言わさぬ魅力を持ち合わせている。
第2楽章Sicilianoになると、少し動きが出る。相変わらずの旋律の美しさに、1楽章との対比でリズムの楽しさが加わる。テンポは速くなくとも、音列は詰まっており、素早いスケールや装飾など、奏者のテクニックも十分披露される音楽だ。
第3楽章Largo、ここで真・緩徐楽章とでも言うべき音楽が繰り広げられる。ト短調で、じっくりと、情感たっぷりに歌われる音楽で耳を喜ばせよう。
第4楽章Allegro、高速パッセージのヴィルトゥオージティに酔いしれつつも、長調と短調が激しく入れ替わる和声も面白くて、そちらについ聴き入ってしまうというのもある。前3つの緩徐楽章が効いているだけあって、この楽章が始まった際のときめきもひとしおだ。

リコーダー音楽はブログを始めてまだ一月ほどの、2008年8月に、ヴィヴァルディのリコーダー協奏曲について書いている。この頃はまだ文章量が少なく内容も薄いが、この当時から今まで好んで聴いているジャンルなので、やっぱりリコーダー好きなんだなと再確認した。良い曲はたくさんあるし、まだまだ開拓していく所存。

Albinoni’s Venice: Venetian Flute Music
Michael Form


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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