プッチーニ 交響的前奏曲:音楽人生へのプレリュード

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プッチーニ 交響的前奏曲 イ長調

2023年最初の記事はジャコモ・プッチーニ(1858-1924)の「交響的前奏曲」。このブログは今年で15年目、曲数にして400曲以上書いているが、なんとプッチーニは初登場。昔から好きだけども、オペラについては、ここに書くとやたら長くなりそうで、ほとんど書いていないのである。ブログを始めた当初に取り上げたもの以外にはオペラの記事はなく、従ってオペラがメインの作曲家の登場頻度は極めて低い。プロフィールにも書いたが、Twitterの方ではたまにオペラの話もしているので、よろしければフォローしてください。


本当ならこの記事は昨年末に書こうと思っていたのだが、アジカン思い出話を書くのに意外と時間を費やしてしまい、後回しになった。そちらは僕の若かりし頃の話で、今回書くプッチーニの「交響的前奏曲」は、プッチーニの若かりし頃の作品だ。


トスカーナの教会音楽家の家系に生まれ、故郷ルッカでオルガン奏者をしていたプッチーニ。ルッカにあるパチーニ音楽学校(オペラ作曲家ジョヴァンニ・パチーニが創設した学校)で音楽の基礎を学び、1880年、22歳でミラノ音楽院に入学。
ミラノ音楽院といえば、1832年、当時18歳のヴェルディを入試で落としたことで知られている。その当時では入学年齢を超えていたとか、体系的な音楽知識がなかったとか、ピアノの実技で落ちたとか、色々言われているが、そのくせに1901年にヴェルディが亡くなると名を冠して「ジュゼッペ・ヴェルディ ミラノ音楽院」にしているし、その数年後にはヴェルディ・ホールを建設。貴重な資料展示もある大ホールである。戦後に小ホールとして作られたのがプッチーニ・ホール。扱いの差があるなあ。
プッチーニという偉大な卒業生がいるのにヴェルディに媚び過ぎだと言ったら余計なお世話だろうが、ヴェルディは晩年、ミラノ音楽院をヴェルディ音楽院に改名したいと打診された際も断っているし、だからもう「プッチーニ音楽院」で良いだろと、プッチーニ推しの僕は思っているのだが、どうでしょう。もちろんヴェルディも好きですよ。なおガッララーテとラ・スペツィアの音楽院はプッチーニの名を冠しているようだ。


ちょっとミラノ音楽院の話が長くなってしまった。今回紹介したい「交響的前奏曲」は、プッチーニがミラノ音楽院時代に作曲したもので、一説によると卒業制作だったと言われている。1882年の作。10分ほどの穏やかな曲調の管弦楽曲で、いわゆるコンサート用の前奏曲。しかし、この雰囲気で前奏曲と言われると、多くの人はワーグナーのローエングリンの前奏曲を思い浮かべるだろう。第3幕ではなく、第1幕の方ね。まさにこれから長大なロマンティック・ストーリーが始まる予感、そんな音楽である。
イギリスの音楽学者・合唱指揮者のDavid Trusloveは、プッチーニがミラノ音楽院在学中は、ミラノの劇場でさほど多くのワーグナー作品が取り上げられていたわけではないものの、学生たちの間では徐々に人気になっていった、と書いている。音楽院内でもマイスタージンガー前奏曲やジークフリート牧歌が演奏されていたかもしれないし、この「交響的前奏曲」を作曲する頃には確実にローエングリンの前奏曲をプッチーニは知っていただろう、とも。僕もそう思う。パクリとは言わないが、雰囲気だけならエルザの大聖堂への行列も彷彿とさせる。


エルザを思わせるのはこの曲の主題に特徴的なリズムのせいだが、この主題こそ、プッチーニらしさの塊である。プッチーニらしさ、なんて言えるのは、それ相応にプッチーニのオペラ作品を知っていなければ出ない言葉ではあるけれども、プッチーニのオペラが好きな人であれば間違いなく、曲が始まってメロディを聴いた瞬間に「あ!プッチーニだ!」と納得できる。もちろん全く知らない人でも旋律の美しさに浸ることはできるだろうが、個人的にはオペラを知ってからこの曲を知れて良かったと思っている。メロディだけでなく、そこかしこにプッチーニ的美学を感じる。ハープの伴奏が入ればまた一段と美しい。トランペットとトロンボーンが叫び、シンバルがジャンと盛り上がる、このほとばしる情熱。これもまた良い。こういった部分では、まだ荒削りなのだろうが、後年のオペラで用いる手法を垣間見ることができる。
1882年7月に学生オケで初演。ミラノの新聞ではあまり良い評価ではなかったそうだ。それも何となくわかるというか、演奏もちょっと下手をするとすぐ野暮ったくなる曲だと思うし、またやはり後年のオペラ作品を知った状態で聴くのと全く知らずに一からこれを聴くのとでは、受け止め方が大きく違うよなあと思う。
それでも、現在でもアマオケで取り上げられることもあるそうで、検索したら吹奏楽編曲もあった。アマオケや吹奏楽ではプッチーニなど滅多に演奏されないだろうし、どんどん取り上げてもらいたい。が、しかし、同じようなポジションの演奏会向け前奏曲としては有名なものもたくさんあるし、それこそイタリアならカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲もあるし、オペラ序曲や間奏曲をやる方が普通の感覚かもしれない。プロの録音だと、たまにプッチーニのオペラ録音の隙間に入れられたりすることもあるが、ムーティやシモーネの他に、意外とネゼ=セガンやネルソンスなどが取り上げているし、最近ではバッティストーニが東フィルを振った2015年の動画がYou Tubeで視聴できる(↓)。


僕がこの曲を好んでいる理由は、ほとんどのプッチーニ作品には明確なストーリーが存在しているのに対し、この曲はプッチーニらしいメロメロな美しさを持ちながら、何ら筋書きがない、つまり自分で好きなように描いたストーリーを思い浮かべて聴ける楽しさがあるからである。
ヴェルディに憧れてオペラの道を志し、ワーグナーを取り入れて、自身の独自の音楽性を発展させたプッチーニ。この「交響的前奏曲」は、まだストーリーも何もない、これから始まる偉大なオペラ作曲家への人生の序章であり、彼の音楽人生のプレリュードでもあるのだ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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