イベール 組曲「サモス島の庭師」:エーゲ海の寄港地はこちら

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イベール 組曲「サモス島の庭師」

ジャック・イベール(1890-1962)を取り上げるのは2009年9月以来である。15年近くも前だ。ブログを始めて1年経ったくらいの頃。この頃の文章を読み返すと、最初期のように短すぎて読むに値しないほどでもなく、長過ぎて読む気が起きないほどでもなく、軽い気持ちでそこそこの分量を書いていて、なんか良い感じだ。若さがあるよね。今はもう、どんどん知識や情報もマニアックになっていくのを自覚しているので、当時のイベールの記事のようにもっとフワッと軽く書きたいなあ、なんて思ったら、記事の最後に「さて、少し冗談に走りすぎたが、最近真面目なことばっかり書いていたから、たまにはこれくらい書いてもいいだろう」と書いていた。うーむ、冗談めいていたのか……思い返しても、これを書いた頃どう考えていたかなんて覚えていないわ。まあ本人がそう言うんだからそうだったのだろう。ということで、今後もあまりスタイルを気にせず、書きたいように書こうと思う。そうこう言っているうちに、また前書きだけでボリュームが出てしまった。簡潔など夢のまた夢。

最近はやたらとギリシャ神話に関連する音楽ばかり取り上げているので自重しようと思っているのに、ついつい、そういう曲が続いてしまう。まあタイトルから察せられるだけで、実際どのくらいギリシャ神話と関連があるかはわからないけども。今回挙げるイベールの「サモス島の庭師」は、フランスの詩人/作家/戯曲作家であるシャルル・ヴィルドラック(1882-1971)の戯曲に基づく付随音楽である。イベールの作品紹介にはヴィユ・コロンビエ劇場の委嘱で1924年作と書かれており、劇付随音楽とされていたりバレエとされていたり、謎である。ヴィルドラックの方を参照すると、この「サモス島の庭師」は演劇のために書かれたもので、1932年の作品と書かれている。どうやら劇として上演されたのが1932年のようで、イベールは先に音楽を完成させていたが、劇の上演が遅くなったので、音楽だけで先に出してしまったようだ。1924年にはピアノ編曲版を出版、1925年には演奏会用組曲として抜粋し、ダリウス・ミヨーの指揮で演奏、1926年に本来の編成(フルート、クラリネット、トランペット、ヴァイオリン、チェロ、打楽器)で組曲を出版。1936年には全曲が出版されたそうだが、どんなものかは不明。今はもっぱら組曲のみが「イベールの知られざる室内楽の傑作」的な扱いである。それでも全くの秘曲というほどではなく、面白い編成なので、日本でも海外でも時々録音、演奏されているようだ。ちなみに組曲が出版された1926年には、劇作家のヴィルドラックは日本を訪れており、黒田清輝や与謝野晶子、堀口大學、高田博厚、片山敏彦ら、フランスゆかりの作家や芸術家たちと交流している。

シャルル・ヴィルドラック夫妻が訪日した際の写真。画像掲載元:Wikipedia


戯曲がどんな内容かは調べたがわからなかった。サモス島はエーゲ海東部に位置するギリシャの島で、ほぼトルコ寄り、ロードス島の北西190kmあたりにある小島である。数学者ピタゴラスの出身地であり、また神話ではゼウスの妻ヘラの生地とされており、ヘラ信仰の聖地として世界遺産にもなっている。そんな島の庭師の話だそうだが、サモス島にも庭師にも詳しくない僕からは何も言えない。各曲のタイトルからも想像ができないので、打つ手なし。無念。きれいな島のようで、きっと庭師も活躍しがいがあるのだろう。知らんけど。

サモス島。画像掲載元:Greeka

第1曲Ouverture、序曲。全ての楽器が活躍する序曲は付随音楽の序曲らしく、劇音楽として後に登場する主題を集めたものだろう。編成を見ても、最小単位のオーケストラといった楽器の集合であり、イベールの巧みな音の色彩を味わうことができる。
第2曲Air de danse、舞踏音楽。フルートが大活躍する。タンバリンと太鼓のリズムに、ヴァイオリンとチェロのピッツィカートが伴奏を務める。洒脱ではあるが、プリミティブな踊りの強さのようなものも感じる。劇にはバレエの場面があったのだろうか。古代から続く歴史ある島の踊りを、ちょっと想像してみても面白いかもしれない。
第3曲Prelude du 2eme acte、第2幕への前奏曲。ヴァイオリンとチェロが雄弁に対位法的な二重奏曲を奏でる。当然、厳格な雰囲気も醸し出されるし、イベールらしい捉えどころのなさもある。それでもチグハグな感じはしない、合うべきポイントで両者の奏でる音楽同士がしっかり合うので、どこか心地よくすら思う。
第4曲Prelude du 4eme acte、第4幕への前奏曲。フーガの様式で、重厚かつ高貴な、と楽譜には書かれているそうだ。序曲に登場した主題と同じ主題が用いられる。クラリネット、ヴァイオリン、チェロと重なるフーガはどこか滑稽で、面白可笑しく聴こえる。第3曲と良いコントラストを成す。
第5曲Prelude du 5eme acte、第5幕への前奏曲。序曲のような合奏で、動きのある楽章。各々の楽器があっちこっちの方向へと力強く主張するが、妙なまとまりがあるのが不思議なところ。このあたり、イベールのバランス感覚というか、さすがの手腕である。

イベールも多作の割にはいつも一部の曲しか演奏、録音されない作曲家だろう。特にオーケストラでは、フルート協奏曲や寄港地は本当に良い曲だと僕も思うけど、そればかりなのはさすがにもったいない。バレエやオペラ、劇や映画の音楽などは、まだ開拓されていない曲も多くありそうだ。色々取り上げてもらいたいし、その際にはぜひ、オケの楽団員の腕自慢たちが組んで「サモス島の庭師」なんかを幕間にやったりすると楽しいと思う。フルートの名手さんはコンチェルトクルーズの途中にエーゲ海の小島にも寄港してください!

Ibert: Oeuvres pour vents
Henri Demarquette

Ibert : Symphonie concertante pour hautbois, Capriccio, Le jardinier de Samos


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