カステル 弦楽三重奏曲 変ロ長調:今まさにノリノリの元気モリモリの、色とりどりの、トリオ、トリオ!

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カステル 弦楽三重奏曲 変ロ長調

先日、東京国立近代美術館で開催されている「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」展を見に行った。この展覧会は、東京国立近代美術館と、パリ市立近代美術館、そして大阪中之島美術館の3館から、あるテーマに基づいて3つの作品を選び出し、それを並べて「トリオ」として展示するという面白い試みだ。ジャンルも多種多様で見応えもあり、とても楽しかった。昔はこのブログでも展覧会感想記事を書いていたけど、もう何年も書いていない。Twitterの方では少し感想を書くこともあるので、興味のある方はぜひフォローしてくださいね。宣伝終わり。

左からシャガール、三岸好太郎、ダリの作品。


例えば上の写真は「夢と幻想」をテーマに選ばれた3つの作品。シャガール、三岸好太郎、ダリの絵が並んでいる。平日に行ったのに、世の中は夏休みシーズンなのか、それなりに賑わっていて、このように3つの絵の前から完全に人がいなくなる写真は一体どのくらい待ったら撮れるもんかな……と、気になって待機してみた。展示室の真ん中に置かれたベンチに腰掛け、絵と来場者を眺めること25分、ついに人が捌けて撮影成功。それまで途切れることなく人が来るんだから凄いよね、さすが東京のド真ん中。それにしても、一つ一つの絵をじっくり見る人はいても、三作品を同時に見ようと引いて見る人は非常に少ないとわかった。せっかく「トリオ」なんだから同時に視界に収めても面白いかなと思い、自分なりに工夫して(工夫という程でもない)見てみたりしたけど、どうかしら。まあ、3つだろうが1つずつだろうが、何にせよ自由に鑑賞するのが美術館を訪れる喜びであることには違いない。別に逆立ちして見たって良いのだよ、でも転んで作品にぶつけたりするなよ!


楽しいトリオ展覧会を満喫したので、家に帰ったら何かトリオの音楽を聴こうかなと思いながら、結局聴かなかった。その代わり、ということではないけど、ブログでトリオの音楽を紹介しよう。18世紀スペインの作曲家、ホセ・カステル(1737-1808)の弦楽三重奏曲。カステルはまだほとんど知られていない作曲家だろう。世代的にはハイドンの5つ年下になる。今月ブログに書いた有名なスペインの作曲家、サラサーテと同じナバラ州生まれ。サラサーテの方が100年以上後の時代だが。サラサーテは州都パンプローナ出身、カステルは州の第二の都市トゥデラの出身。教会のオルガン奏者や、出版業、音楽指導、スペインの劇音楽(トナディーリャ)の作曲家として活躍した。あまり詳しいことはわからないが、今後もう少し情報が出てくるかもしれない。

ナバラ州のトゥデラ。画像掲載元:スペイン観光公式サイトspain.info


カステルの弦楽三重奏曲は、当時の科学芸術アカデミー的な存在であるReal Sociedad Bascongada(バスク友好協会)のために書かれたとされている。なぜ四重奏ではなく三重奏なのか知る由もないが、いわゆる一般的な「ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ」の三重奏ではなく、当時多かった「2つのヴァイオリンと低音」という組み合わせ。記事冒頭で挙げているConcerto 1700による録音では2つのヴァイオリンとチェロで演奏している。1785年頃の作品と見なされており、6つの三重奏曲が出版されている。今回挙げた変ロ長調のものは先述のCDで1曲目に収録されている曲だ。どの曲も素晴らしいが、1曲目が良いと続きも聴き進めたいと思わされるもので、ここでは良い導入の役目を果たしてくれている。3楽章構成で最後はメヌエット、という曲が多い。この変ロ長調の曲もそうだ。
1楽章はAllegro spiritoso、奇しくも前回の記事で書いたモーツァルトのリンツの1楽章と同じである(作曲時期も近い)。このくらいの時代、初期の古典派音楽においては、当然モーツァルトが頭一つ抜けていると思うけど、カステルのトリオの1楽章はモーツァルトとも比肩しうる、生き生きした音楽が繰り広げられる。もちろんConcerto 1700の演奏が良いのは言うまでもない。大衆のための演劇の音楽を多く作曲した人物だからだろうか、楽しませ方、魅せ方を心得ているのかもしれない。2楽章のLarghettoも、3楽章のMenuettoも、そのTrioも独特の良さがある。基本的に低音(チェロ)は控えめで、2本のヴァイオリンが主役ではあるが、チェロもときに独立して聴かせてくれるタイミングがあり、退屈させない。良いバランスだ。また「どの曲も同じ」ということもなく、それぞれの楽しさがある。実は凄い作曲家だったのだろう。作品目録には交響曲やカンタータなど、幅広くあることがわかっている。これから復活されて色々と演奏されるのを期待しよう。

「弦楽三重奏はディヴェルティメント的な性格のものだった」とよく解説等で書かれたりするが、音の厚みもなく軽いので弦楽四重奏より肩肘張らないのは本当だ。それでも聴いてもらえればわかるが、カステルのトリオはどれも高品質。捨て置くような曲ではない。知られざる古典派の音楽も今はどんどん開拓されて、これまで名前も聞いたことのなかった作曲家の音楽の録音も増えてきている。そのどれもが、ハイドンやモーツァルトに並ぶような魅力に溢れている……とまでは言い難いし、色々聴いてみると実際「これはあんまり面白くないな」と思う曲に当たることもある。しかし、そういう音楽もあったんだなと、蓄積があること自体が面白いし、ある音楽家やある作品が「頭一つ抜けて」とか「飛び抜けて」良いと思うには、抜かされる有象無象を知ることも重要だ。あるいはどんどん突き詰めていったり、ちょっと見る角度を変えれば、有象無象と思っていたものが急に色鮮やかになり、輝き出すこともあるのが音楽の面白いところ。並べ方や展示の仕方で印象が変わるように、聴く方もちょっと工夫してみると良いかもしれない。とはいえこのカステルのトリオは、何の工夫もなく聴いても十分楽しい、良い音楽だ。

José Castel: String Trios
Concerto 1700


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都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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