ヴァーゲンザイル ハープ協奏曲 ト長調:グーテンタークこんにちは、また来たよアウガルテンのカメさん

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ヴァーゲンザイル ハープ協奏曲 ト長調

またしてもジャケットで選んでしまった。いやいや、気になるでしょ、これ。亀の置物かなと思ったら、蓋付きの入れ物らしい。クラウディウス・イノセンティウス・デュ・パキエ(Claudius Innocentius du Paquier)という陶芸家の作品である。デュ・パキエ窯は1718年に開設された、マイセンに次いでヨーロッパで2番めに古い磁器工房で、今も有名な磁器工房アウガルテンの前身とのこと。1744年にマリア・テレジアによってハプスブルク家御用達となり、盾の紋章を使用するようになったそうだ。
だからこのベルギーの老舗古楽レーベルAccentの音盤“The Harp in the Vienna of Maria Theresa”のジャケットにもぴったりというわけだ。僕は調べないとわからなかったけど、お金持ちの人や教養のある人ならこの亀さんを見て「なるほど~、マリア・テレジアだからアウガルテンなのね~」とわかるのかもしれない。気になるこの亀さんはブックレットを開くとアップの写真があったり、ページの空白とかに小さく載っていたりして、良くしてもらっている。縁起が良いこと。


マリア・テレジア(1717-1780)の時代のウィーンはどんな時代だったか。もちろん一言で述べるは難しいだろうが、諸改革に力を入れたマリア・テレジアの時代には音楽が宮廷から外に広がり、新しいスタイルが増えていったことは間違いない。今回取り上げる作曲家、ゲオルク・クリストフ・ヴァーゲンザイル(1715-1777)は、生没年を見てもマリア・テレジアとほぼ同時代人だとわかる。ウィーンに生まれ、宮廷楽長フックスに音楽を学び、フックスの推薦で1739年に宮廷作曲家に任命される。マリア・テレジアの音楽教師を務め、作曲家、鍵盤奏者としても名高く、ハイドンやモーツァルトもヴァーゲンザイルの作品に親しんでいたという。
モーツァルトは5歳になる3日前にヴァーゲンザイルの曲を練習していたという記録が残っており、6歳のときにシェーンブルン宮殿でマリア・テレジアに演奏を披露した際には、モーツァルトはヴァーゲンザイルに「あなたの協奏曲を弾くので譜めくりをしてください」と声をかけた、というエピソードもある。
モーツァルトも弾いたという鍵盤の作品はもちろん、オペラ、オラトリオ、ミサ曲やカンタータから、交響曲や協奏曲、器楽作品など幅広く作曲。特に自身が演奏するためのチェンバロ協奏曲は数多く、また古典派交響曲の発展にも大いに貢献した作曲家だ。
ヴァーゲンザイル自身は生涯宮廷音楽家として仕えた人物であり、先に挙げたような宮廷外に広がる新しい時代の音楽とは言い難いかもしれないが、バロックから古典派への橋渡しのような作風ではある。前古典派とか、ギャラント様式の音楽と呼ばれることもある。また今回取り上げる「ハープ協奏曲」に関しては、ある意味、新時代の音楽かもしれない。バロック時代のペダルなしハープは複雑化する音楽に対応できず時代遅れと見なされつつあった頃、Jacob Hochbruckerという制作者がペダルを踏んで半音上げることのできる初のペダルハープを制作し、1728年にはカール6世とマリア・テレジアに贈呈。このいわゆるシングルアクションハープは登場するとすぐにウィーンで流行し、パリではいっそうの盛り上がりを見せ、後の進化に繋がることとなる。↓の記事も参照ください。


ヴァーゲンザイル自身はハープを弾かなかったものの、チェンバロ協奏曲をハープで代用するという提案はしていた。このト長調の協奏曲も元はチェンバロ用で、1765年頃にパリで出版された楽譜には「チェンバロ向けだがハープでも非常に良く機能する」と書かれている。ハープ奏者たちから長く愛され、ドイツ・グラモフォンにはニカノール・サバレタが弾く1960年代の録音があるほど。ハープの重要レパートリーである。

Bach/Handel Virtuoso Harp Music


もちろん、曲が良いから後世まで残っているのは言うまでもない。3楽章構成で、時間は15分弱。1楽章Allegroは軽快なオーケストラによるイントロから始まり、ソロへ。メロディも美しい。バロックではないが、古典派とも言えないような、微妙なラインだなあと思わせる。しかし明快な音楽だ。2楽章Andante、緩徐楽章のセンチメンタルさもハープだとまた一段と良い味わい。3楽章Vivaceで再び明るくなって、整った協奏曲をなす。長調短調のコントラスト、終始忙しいハープと弦楽器の絡み方も心地よい。この曲の面白いのは、トゥッティではハープも通奏低音の役を担うがソロになるとしっかりと名人芸を披露するところだ。作曲した本人の言う通りにどちらも「よく機能している」と言えるだろう。
チェンバロ協奏曲も録音があるが、ハープ協奏曲の方が録音が多いという状況も、この曲の素晴らしさを物語っている。午後のティータイムに流すのにもよく合うだろう。カップはもちろんアウガルテン、でなくとも、ちょっと良いカップを使いたくなるね。せっかくなので↓にリンク貼りました。どんな感じかぜひ(お値段も)チェックしてくださいね!

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