プラッティ 鍵盤協奏曲 ト長調 I.54
先日、SOMPO美術館で開催されている「カナレットとヴェネツィアの輝き」という展覧会を見た。日本初のカナレット展だそうだ。クラシック音楽好きにとっては、カナレットの風景画は音盤のジャケット等で見慣れたもので、こうしてまとめて実物を何点も見るのはとても興味深かった。何しろCDジャケットは小さいし、正方形に切り取られているものばかりなので、本当のサイズ感で見るとその精密な描写に驚いてしまう。周辺作品も含めて、満足感の高い展覧会だった。Twitterでも少し感想をつぶやいているのでぜひ読んでみてください。
今日はSOMPO美術館で「カナレットとヴェネツィアの輝き」展を観ました。日本初のカナレット展だそうです。クラシック音楽の音盤ジャケットでもよく見るカナレット作品に、同時代のグアルディ作品などがスコットランド国立美術館ほか英国から来日。美しい風景画、眼福! 2年前の同美術館展も思い出す🥰 https://t.co/27PD49ajKJ pic.twitter.com/3A8K8i9JQL
— ボクノオンガク (@bokunoongaku) November 5, 2024
ということで、今回はカナレットの絵を使った音盤を選んでブログを書こう。そう思って探してみると、予想通り、ヴィヴァルディばかりである。もうね、逆にヴィヴァルディの録音にはカナレットの絵を選んでおけば良いだろという適当さが伝わってくるようで、マジで馬鹿の一つ覚えみたいにヴィヴァルディしかない。いくつか紹介しておこう。
ヴィヴァルディ:バスーン協奏曲集
ミラン・トルコビッチ
Vivaldi:Sacred Music Vol.3
Vivaldi: Six Concertos For Flute Op. 10/3, RV428; Flute Concerto in Gm, Op. 10/2, RV439
やっぱり弊ブログといたしましては、ここでヴィヴァルディを挙げては芸が無い、他の作曲家にしようと探してみた。いやヴィヴァルディ好きなんですけど(今年はごしきひわの記事も書いたし、ストラヴィンスキーのヴィヴァルディ批判の記事も書いた)、ちょっと今ヴィヴァルディの気分ではない。カナレット画のジャケットの音盤はハイドンやバッハ、モーツァルトもあるし、ガブリエリもいいなあとか、久しぶりにアルビノーニもありだなあとか、コンピ盤もあるなあ、どうしようかなあと、あれこれ悩んで、ジョヴァンニ・ベネデット・プラッティ(1697-1763)に決めた。イタリアの作曲家で、オーボエ奏者だったことでも知られる。CPOレーベルから出ているプラッティのチェンバロ協奏曲集、2020年だか2021年だか、コロナ禍真っ最中に出たものだ。ロベルト・ロレジャンがチェンバロ、フェデリコ・グリエルモ指揮ラルテ・デラルコによる2017年録音。4曲のチェンバロ協奏曲に、1曲だけヴァイオリン協奏曲があり、そちらはグリエルモ自身が独奏を務めている。どの曲も、どの演奏も、本当に素晴らしい。全て長調の爽やかな音楽で、カナレットの描くヴェネツィアの風景、青い空とサン・マルコ湾の海によく似合う。ちなみに同じ絵をジャケットに使ったヴィヴァルディのCDもあったので貼っておこう。
Vivaldi: 6 Concerti Senza Orchestra
Nuovo Quintetto Di Venezia
ちょっと余談。このカナレットの絵は米オハイオ州にあるトレド美術館所蔵のもので、今回のSOMPO美術館の展覧会で展示されてはいなかったが、先にリンクを貼ったツイートの絵(展覧会の看板)の右端を見ると、2つの絵に共通する橋があるのがわかるだろう。この橋のさらに奥、もう少し高い位置に見える橋がいわゆる「ため息橋」である。展覧会看板の絵では影になっていて暗く描かれているし、CPO盤のジャケットの方の絵では手前の橋は全て描かれているのに対し「ため息橋」は半分くらいしか見えない。僕の大好きな画家、ターナーが同じロケーションで描いた絵には、逆に誇張されて「ため息橋」が描かれている。写真のない時代にグランドツアーのお土産として好まれたカナレットの絵でさえそのような扱いだということは、ターナーの時代も今も観光名所である「ため息橋」は、カナレットの時代はまだ名所として認識されていなかったことを示している。
さて、本題に入ろう。プラッティはパドヴァ生まれ、J.S.バッハの一回り年下の世代にあたる。ヴェネツィアで音楽を学んだので、この絵の景色も見慣れていたことだろう。ドイツのヴュルツブルクで宮廷音楽家として働き、超一流と評されたオーボエの他に、鍵盤やヴァイオリン、チェロも弾き、またテノール歌手も務めたそうだ。作風はバロックから初期古典派へ、またイタリア風からドイツ風へと変化していったそうで、ちょうど面白い時代、面白い土地柄の影響を受けている。
またプラッティは、1711年にバルトロメオ・クリストフォリが発明したフォルテピアノのためにソナタを作曲している。CPO盤ではチェンバロ協奏曲ということになっているし、実際その時代はまだフォルテピアノよりもチェンバロが一般的に普及していたのでチェンバロでなんら問題はないが(ステファノ・モラルディはBrilliantレーベルにプラッティのソナタ全集をチェンバロで録音している)、ルカ・グリエルミはフォルテピアノで協奏曲集を録音している。モーツァルトとかの有名作曲家ならともかく、プラッティくらいのマイナーな作曲家で、チェンバロとフォルテピアノの両方で協奏曲の鑑賞を楽しめるのだから、ありがたい話だ。マイナーといっても、ここ何年かで様々なプラッティ作品の録音が増えてきている。魅力に気づいた音楽家が増えているということだ、嬉しい限り。
今回はCPO盤のCDの1曲目に収録されているト長調の協奏曲を紹介したい。1曲目に入れる曲は最初にリスナーが聴く曲で大変重要である。このト長調の協奏曲はまさに1曲目にふさわしい、ぱっと気分が晴れるような爽やかさがある。作曲年代は不明、プラッティの作品としては早い方だと推測される。この曲をオススメしたい理由はもう一つ、それはモダンピアノを用いた録音も存在するということだ。フェリシア・ブルメンタールがグシュルバウアー指揮ザルツブルク響と演奏した1968年録音が各種サブスク配信でも聴ける。プラッティのピアノ協奏曲第1番としてクレジットされているかもしれない。これも面白いのでぜひ。
The Italian Collection, Volume 1
1楽章Allegro assai、先にも言った通り、さあこれから楽しい音楽が始まるぞという勢いを感じるオープニング。チェンバロは通奏低音でオケがメイン、すぐにチェンバロは主役になり、リトルネロ形式の協奏曲をなす。ヴィヴァルディとはまた少し違う雰囲気なのも面白いところだ。チェンバロのテクニックも、アマチュア向きとはあまり思えない高度なもの。
2楽章Largo、ホ短調の美しいメロディ。ヴァイオリンとチェンバロの掛け合いも見事だ。リズムの変化も際立つし、特に古楽系奏者たちがキリッと演奏するのがよく合う緩徐楽章である。
3楽章Allegro assai、1楽章と同じ指示ではあるが、鍵盤もオケも1楽章以上にキビキビ動き、いっそう活気のある音楽になっている。目の回るようなチェンバロの高速フレーズも現れるし、最後の方になるとドキッとするような和音が飛び出てくるのも楽しい。全体的に、このト長調の協奏曲は他の協奏曲に比べるとただ明るいだけではないというか、ちょっと角があるような感じがする。幾分カチっとしているというか。まるでカナレットの定規で引いた精緻な線のようだ……というのは、これはこじつけ(笑) まあ冗談はともかく、聴いていてとても気分の良い音楽なのは間違いない。生き生きした人間の力、太陽の光と海の自然なエネルギーを感じられる。前回の記事とは反対に、とても健康的な音楽だ。たくさん浴びたら元気になりそう。沢山聴いてください。
Four Harpsichord Concertos
Roberto Loreggian, L’Arte Dell’Arco Guglielmo
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more