サン=サーンス ピアノ三重奏曲第1番:フランスの森の情景

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サン=サーンス ピアノ三重奏曲第1番 ヘ長調 作品18

上の音盤はHyperionレーベルのサン=サーンス:ピアノ三重奏曲集、フロレスタン・トリオによる2004年録音である。同曲の非常に優れた演奏の一つとして名高い、名盤であると言えよう。なぜこの曲、この音盤を選んだのかというと、Twitterの方を見ている方は予想がつくと思うが、先日那須に行ってきたからである。東北道をひた走り、那須ICを下りれば那須高原の麓、観光地として賑わう那須町から塩原温泉郷へ向かう県道は那須グリーンラインの愛称があり、緑あふれる森の中の道をドライブするのは実に気持ちが良い。山道をグイグイ進むのとはまた違った、のんびりした風情がある。Twitterの方では車内BGMの一つに選んだBand of Horsesの“Everything All the Time”(2006)を紹介した。森のジャケットと言えばやっぱりこれだよなあ!って言う人は多分日本中でも僕くらいしかいないかもしれない。これ、昔から好きな一枚。クラシックじゃないけど、ぜひ聴いてみてください。

Everything All the Time
Band of Horses


家族旅行のドライブではあまりBGMにクラシックを選ばないので↑になったが、ではクラシック音楽で「森ジャケ盤」と言ったら何だろう。ベートーヴェンの田園なら結構ありそうだし、勝手なイメージだけどブラームスの室内楽作品集やシベリウスの作品でいくつか森の写真や絵を使った音盤がありそうだ。
ということで、今回選んだのが冒頭に貼り付けたサン=サーンスのピアノ三重奏曲というわけだ。ルノワールの絵画『森の中の道』(1910)がジャケットに採用され、これ以上無いほどぴったりである。また今回取り上げるピアノ三重奏曲第1番は、サン=サーンスがピレネー山脈やオーヴェルニュの方へ旅行に行った際に構想を練った曲だと考えられている。うーん、我ながらナイスな選曲。書く前からもう既に満足しているところだ。


詳しい解説を読みたい人は日本語版Wikipediaでも見てみてください。まさにこのHyperion盤の解説も多分に参照されて書かれている。オペラ第一主義でそれ以外の音楽が軽視されていた当時のフランス楽壇において、サン=サーンスは室内楽再興のパイオニアであった。そしてまた、モーツァルトやベートーヴェンやシューマンといった、独墺古典派の器楽・室内楽も愛していた。1863年、サン=サーンスが28歳で作曲したピアノ三重奏曲第1番は、数十年前に書かれたメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲に近い雰囲気を持ち、ベートーヴェンやシューマンらの影響も見て取れる。


また、この曲はしばしば「サン=サーンス最初の傑作」と紹介される。事実、傑作の呼び名に恥じぬ扱いを受けてきた歴史があり、長く愛奏された曲である。私的な初演はサン=サーンスのピアノ、パブロ・デ・サラサーテのヴァイオリン、ジュール・デルサールのチェロにより行われている。なかなか、すごいメンバーだ。公開初演は1865年、ここでもサン=サーンスとサラサーテが弾いたらしい。時期は不明だがイザイも弾いたという記録がある。ティボー、コルトー、カザルスの通称カザルス三重奏団もレパートリーに入れていたが、録音はなさそうだ。1907年、ディエップ市で行われたサン=サーンスの銅像の除幕式でもこの曲が演奏された(以前書いた「ミューズと詩人」の記事も参照)。除幕式にはサン=サーンス本人も招かれている。1921年12月にサン=サーンスが亡くなると、1922年1月の追悼演奏会でも演奏された。

除幕式の様子。この像は戦時中にドイツ軍によって溶かされたそうで、2021年に復元されている。画像掲載元:Société archéologique, scientifique et littéraire de Béziers

4楽章構成で、25分程の演奏時間。第1楽章はAllegro vivace、生き生きとしている。フレッシュで、生命力があって、生きる喜びに満ちている。呼吸する喜びとでも言おうか。空気がおいしい感じがする。そういうところが、森の中の道、緑豊かな情景との親和性がある。あくまで僕の勝手な印象だけども。でもそんなことを思いながら聴くのも似合うと思う。ルノワールの絵や、明るい木漏れ日が差す森を想像して堪能しよう。ヘミオラ、ピアノの勢いの良さ、とてもサン=サーンスらしい音楽だ。
第2楽章Andante、イ短調というのも自然の情景にマッチすると言えないだろうか。この曲の主題はサン=サーンスが訪れたオーヴェルニュ地方の民謡とも関係しているそうだ。カントルーブのオーヴェルニュの歌の記事も読んでみてください。またこの楽章は、僕のようにショーソンの室内楽が好きな人は絶対にグッとくるものがあると思う。


第3楽章Scherzo: Presto、ベートーヴェンを思わせるスケルツォ楽章。サン=サーンスの有名作品である交響曲第3番「オルガン付き」を知っている人であれば、この楽章のリズムから近いものを感じることができるだろう。トリオの主題は農村の踊りとも言われる。ますます自然豊かな景色が合う音楽である。短い楽章だが、オリジナリティにあふれる楽しい音楽だ。
第4楽章Allegroは前のスケルツォに比べると至極真っ当ではあるが、真っ当に終わらせるあたりが独墺の古典派室内楽を愛する作曲家らしくて好印象である。中間部で突然、ピアノだけで美しいメロディを奏でるところも好きだ。本当に心が洗われるような、自然で素朴な良さに満ちている。

ピアノ三重奏曲第2番の方は第1番から30年近く後、1892年に作曲している。こちらもまた違った趣きで素晴らしい作品。第1番は、別に「森の情景の音楽である」と言い切るつもりこそ全く無いが、探してみると他にもいくつか「森ジャケ盤」が見つかるので、やはりそういう風に聴いても怒られないだろう。下のリンクの4枚。森じゃないのもあるだろというツッコミは甘んじて受けよう。それらの演奏も聴いてみてください。
ヨーロッパの深い森の音楽にはもっともっと暗い世界だってあると思う。しかしこちらは明るい緑をめいっぱい感じられる音楽。サン=サーンスは良い曲を作るなあ!

SAINT-SAËNS
Trios avec piano n°1 & 2
TRIO WANDERER

Trios by Saint-Saëns, Piston, and Zemlinsky Caladium Trio
Lin He, violin
Daniel Cassin, cello
Constance Carroll, piano

Camille Saint-Saëns:
Piano Trios Nos. 1 and 2
The Yuval Trio

Trio Hélios
D’un matin de printemps


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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