ラザーリ ピアノ三重奏曲 ト短調 作品13
忙しくても音楽を聴くこと自体はできているレベルで、単にブログやSNSに書く時間を節約しているだけである。けれどもやはり、何かと心身に余裕が無いと音楽鑑賞も新しいものに手を出すよりかは、ついついお気に入りのものばかり選びがちだ。
このブログのプロフィールというページに、僕の好きな作曲家として11人名前を挙げている。随分前に書いてから更新をサボっているから今はちょっと違うかもしれない。でもそこに書いた11人は今もみんな好きだなあ。その中で順位を付けたいとはあまり思っていないけど、好きな作曲家は誰ですかと人に尋ねられたら一応4人、モーツァルト、シューベルト、ショーソン、ヴォーン=ウィリアムズと答えるようにしている。この辺りは必然、最近よく聴く。でもショーソンはどうしても数が少ないので、他3人よりも早くネタが尽きてしまう。
それでもフランスのロマン派は録音も潤沢なので、似たような音楽であれば比較的鑑賞しやすい。ということで今回は、ショーソンとも親交のあった作曲家、シルヴィオ・ラザーリ(1857-1944)を取り上げよう。のどかな南チロルのボーツェン(現イタリアのボルツァーノ)で生まれ、ヴァイオリニストを目指すが両親の意向で法学の道へ。しかしワーグナーに心酔するラザーリは音楽を諦めきれずパリに留学、ショーソンやグノーの助言でパリ音楽院へ入学。フランクの影響を大きく受けつつ、パリで作曲家として活躍した人物だ。

当時の有名な音楽評論家エミール・ヴュイエルモーズは、ラザーリについて「退役した騎兵将校のような風貌と精悍な顔立ちで、会話は威圧的、無愛想で厳格な人物」と記している。写真を見ると、アルセーヌ・ルパンみたいな雰囲気だ。オペラ全盛の時代のパリで、舞台音楽でも室内楽でも評価を得ることができたラザーリ。もっと愛想が良かったら現代までその名を轟かせていたかもしれない(笑) パリ音楽院で学んだ直後に作曲した室内楽作品――弦楽四重奏曲、管楽八重奏曲、そして今回取り上げるピアノ三重奏曲(1886)は、我々が想像する通り、当時のパリ楽壇の空気をよく反映したものになっている。

ピアノ三重奏曲は第一次世界大戦まではパリでよく演奏されたそうだが、その後レパートリーから消えてしまった。Adagio misteriosoの序奏から始まる第1楽章、CD解説ではシューマンやブラームスの影響が見て取れると書かれている。暗めの室内楽は全部その辺の影響だとでも言いたげだなと、ちょっと苦笑してしまうが、でも実際そんな雰囲気もある。そういえばシューマンのトリオ3番も同じト短調だ。この序奏が終わった後のAllegro con fuocoが良い、情熱的だ。3人の間での受け渡しや掛け合いも美しい。ショーソンほどの音の厚みとまでは言わないが、それでも近いものがあるし、適度な厚みを持っていながら、ときに立ち止まることでちょうど良くバランスが取れているようだ。
チェロの滋味深い旋律から始まる第2楽章Andanteも素敵。幻想的なピアノを伴って、ヴァイオリンとチェロが共に歌う、これも美しい。オペラ顔負けの濃密な歌が現れると、これこそ19世紀末のフランス音楽だ、と恍惚としてしまう。この時代の室内楽の魅力をたっぷりと味わえる。
第3楽章Allegretto grazioso、優雅なアレグレットはそれこそブラームスを彷彿とさせるワルツの趣き。しかしただのワルツで終始行くのではなく、ところどころで色んな要素が挿入されてくるのが面白い。この、ちょっとごちゃっとしたところが、ブラームス・イン・パリってところかしら。他3つと比較すると短い楽章だが、実にいい箸休め。華やかなボールルームとはまた違う、パリの小さなサロンの一場面のようだ。
第4楽章Finale、Allegro appassionatoで第1楽章以上に熱情の炎が燃え盛る音楽。感情が溢れるがそれに溺れることなく、構造の強さや相変わらずの音の厚みがあって、非常にたくましい印象。僕はショーソンの室内楽を聴くとき、その厚ぼったさや惜しみなく溢れ出すロマンティックな感情を愉しんでいるが、ラザーリのピアノ三重奏曲からはそれに近いものを感じる。もっとスマートに表現できる音楽家もいるのだろうが、このくらい詰め込んである密度というか、ちょっと、ほんとにちょっとだけ邪魔だなと思ってしまうくらい、耳にまとわりつくような湿度の高さがたまらないのだ。圧倒的なエネルギーが満ちている。良い音楽だと思う。
本記事の副題に大した意味はない。プリパラの緑風ふわりにリスペクトを込めて、昨年の記事から拝借した。マラツのピアノ三重奏曲もぜひ聴いてみていただきたい。ああ、アルプスの天然美少女もパリになんか連れられて行ったら色んな意味で影響受けちゃうんだろうなあ!
ラザーリがピアノ三重奏曲を書いた1886年というと、ゴッホがパリに来た年である。先月、三菱一号館美術館で観た展覧会では、まさにその1886年にゴッホがパリで描いた『モンマルトルの風車』(アーティゾン美術館所蔵)の展示があった。これもラザーリと同様、当時のパリの影響を受けた芸術作品ということで、ここに写真を貼っておこう。

ついでに6月に行った上野の森の大ゴッホ展で撮った『夜のカフェテラス』も貼っておく。XとかいうSNSに上げたはずが、不具合で消えてしまったので……こちらは1888年の作、パリではなくアルル時代のものだ。

記事冒頭の音盤はArionレーベル、Trio de France名義の録音だが有名な往年の名手たちによるTrio de Franceではなく、Jacques Duhem(vn)、Hervé Derrien(vc)、Madeleine Virlogeux(p)というメンバー。1996年録音。ジャケットはアンドレ・ジルの『モンマルトル大通りのパノラマ』(1880)である。これはラザーリのピアノ三重奏曲をを聴くときに良い参考になりそうだ。モンマルトル大通りはモンマルトルにないので先に貼ったゴッホの絵とは関係ないけど、きっとゴッホもラザーリも、この通りを通ったでしょうね、知らんけどね。なおどうでもいいが、この絵の中央下部、赤い帽子の女性(オルタンス・シュネデール)の隣にはオッフェンバックがいる。

こんな風景がパリの日常だったのだろうし、それはそれは多くの芸術家たちが影響を与え合っていたことだろう。↓のCPO盤、トーマス・クリスティアン・アンサンブルの2012年録音のジャケットはクリムトだ。この曲はクリムトが合う感じではないよなあ、合うとしても別の絵かなあ、まあ他の収録曲との関連もあるから悪くは言わないけどさ。ジャケットならさすが、フランスの老舗Arionの勝利だ、なお演奏はどちらも大勝利の素晴らしい演奏なので、ぜひ。
Author: funapee(Twitter)都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more








