サマヴェル クラリネット五重奏曲 ト長調
サー・アーサー・サマヴェル(1863-1937)の曲をブログで取り上げるのは2013年以来である。サマヴェルの本領とも言える歌曲集「シュロップシャーの若者」について書いたのだった。
上の記事でもサマヴェルはスタンフォードやキール、パリーに学んだと書いたが、当時王立音楽大学で教鞭をとっていたスタンフォードもパリーも英国音楽界の保守派と見なされており、ブラームスの影響を大きく受けた作曲家である。スタンフォードはドイツ留学時代にブラームスに会っているし、パリーはワーグナー夫妻と親しかったようだが音楽的にはブラームス擁護者である。キールはシューマンとブラームスの間の世代で室内楽の大家であり、またサマヴェルはクララ・シューマンの異父弟であるバルギールからも音楽を学んでいる。そんな「ブラームスの音楽精神」をたっぷりと学び受け継いだサマヴェルのクラリネット五重奏曲がどんな音楽になっているか、玄人ファンなら聴かなくても想像できてしまうかもしれない。そもそもスタンフォードは「ブラームスのクラリネット五重奏曲の影響を受けずしてクラリネット五重奏曲を書ける作曲家はいない」と語っていたそうだ。
なお1892年4月29日、リヒャルト・ミュールフェルトとヨーゼフ・ヨアヒム率いる弦楽四重奏団が訪英し、ブラームスのクラリネット五重奏曲がロンドン初演された。その際にはスタンフォードもパリーも同席している。同年5月にはジョージ・クリントン教授(クリントン・システムを作った英国クラリネット界の巨匠)も同曲を演奏。サマヴェルがそれらの演奏を聴いた証拠はないが、きっと聴いていたのではないだろうか。1894年にサマヴェルは31歳で王立音楽大学で教鞭をとるようになる。
若くして王立音楽大学の教員となり音楽教育に尽力したことがサマヴェルの創作活動を制限したと書かれることも多い。合唱や歌曲、アマチュア向け作品を書くことに精力的に取り組み、彼の保守的な作風はそれらの作品で大いに活かされて、受け入れられてきた。一方で、ブラームスを彷彿とさせるガチガチに保守的なクラリネット五重奏曲は、1913年作曲、1919年5月19日にウィグモア・ホールで演奏されてから長く顧みられることはなかった。まずもって作曲から初演まで6年もかかっているのが当時の興味の持たれなさを物語っている。1913年と言えばストラヴィンスキーの「春の祭典」が作曲された年であり、時代はまさに新しい音楽の勢いで渦を巻いていた頃だ。ブラームス風の室内楽が取り沙汰されるような雰囲気ではなかっただろう。ちなみにサマヴェルの娘はバレエ・リュスのダンサーだったそうだ。記事冒頭のHyperion盤はシア・キング(cl)とエオリアン弦楽四重奏団による1979年録音。楽譜が出版されたのは1984年で、スティーヴン・シーゲンターラー(cl)とライプツィヒ弦楽四重奏団の2013年録音がCPOから出ている。
サマヴェル自身はクラリネットの専門教育を受けていないが、クラリネット五重奏曲を作曲した1913年に、フランスのヴァランジュヴィルで子どもたちとクラリネットを吹いている写真が残っている(次男の方はファゴットを吹いている)。楽器はなんでも演奏できるタイプだったそうで、クラリネットも結構上手く吹けたらしい。

第1楽章Sostenuto – Allegretto grazioso (quasi andante)、開始早々にブラームスのクラリネット五重奏曲に似た雰囲気が充満する。ただ、ブラームスよりももっと柔和かもしれないが、それと同じような、非常によく抑制された情熱と言おうか、熱く、それでいて尚且つ上品な旋律が聴かれる。クラリネットと弦楽もよく溶け合って美しい。第2楽章Intermezzo: Allegretto、間奏曲は民謡風のメロディもあってどこか懐かしい、ドヴォルザークも脳裏によぎる。イギリスの田園風景を思い浮かべながら聴くのが良いだろう。中間部は舞曲風になっているのも素敵だ。いわゆるミュゼット。
第3楽章Lament: Adagio non troppo、悲歌というほど悲しみに暮れていなそうではあるが、美しい歌が巧みに展開していくのもブラームス風を感じる。第4楽章Finale: Allegro vivace、祝祭的なフィナーレ。すぐに落ち着きを取り戻すものの、活気ある堂々としたマーチのように進む音楽は作品の締めくくりに相応しい。今まで低音、シャリュモーな音が中心となって魅力を生んでいた他の楽章と比べ、高音でも活躍するクラリネットが楽しい。取ってつけたようなコーダでパッと終わるのも面白いところ。
そりゃあもちろん、ブラームスの方が傑作に違いないだろうが、それより少し短くて、少し柔らかくて、そしてオリジナリティもある。良い作品だと思う。おそらくサマヴェルが作曲した当時、そして長く顧みられなかった時代よりも、今の時代はこれを好意的に受け入れる聴衆は多いだろう。ブラームスの作品は、このブログでは秋頃に取り上げることが多いし、レーガーのクラリネット五重奏曲を取り上げたときは「梅雨入りしたので、雨の日に聴きたいクラシック」として紹介したけど、サマヴェルの曲は春や夏に良いと思う。もっとも、日本の夏ではないだろうけどね。今日も暑いぞ!
Author: funapee(Twitter)都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more








