今年はヤノフスキがN響と第九をやると知って楽しみにしていたのですが、日程が合わずどれも行けなかったので、その腹いせで来た第九です、ええもちろん嘘です。光藍社のこのシリーズは、数年前にタタルニコフ指揮ミハイロフスキー劇場管の第九を聴きに行きましたが、それが意外と良かったのと、先日キエフバレエの方の公演を見た方から、このオケのティンパニが超個性的だったと言われたので、かなり期待して聴きに行きました。あとは晋友会を聴きたかったというのもあります。今年は関屋晋さんの本を読んだので。
【ウクライナ国立歌劇場管「第九」「第七」】
(2018年12月29日、東京オペラシティコンサートホール)
ベートーヴェン 交響曲第7番 イ長調 作品92
ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱」
指揮:ミコラ・ジャジューラ
ソプラノ:オクサナ・・クラマレヴァ
メゾ・ソプラノ:アンジェリーナ・シヴァチカ
テノール:ドミトロ・クジミン
バス:セルゲイ・マゲラ
合唱:晋友会合唱団
合唱指揮:清水敬一
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
時代を経る度に第九のテンポが早くなっていくという話を何かで読みましたが、そういう流れの中でも旧ソオケはどっしり構えてやってくれるという勝手なイメージがあります。別にテンポがすごく遅い訳ではありませんが、クリアなサウンドと見通しの良い音楽作りという雰囲気とはまたちょっと違う、力で押すべきところは自重せずにグイグイ押すので、それもまたベートーヴェンを聴く楽しみの一つです。前半は第7交響曲、オケの人数もさして多いわけではないのですが、まあ良く鳴ること。小気味いいですね。年末くらいこうして大盤振る舞いして欲しいものです(笑)
期待していたティンパニも、クセの強い個性的な奏者でした。マレット逆持ちして、プラヘッドを容赦なくバシバシと叩くのは、これまた爽快感があります。維持費かかるんだろうなあ、とか、だからプラなのかなあ、とか余計なことも頭を過りましたが、それはともかく、その強烈な打撃もよくオケとマッチしています。強いウクライナ、強いオケ。今年の京響の第九が下野指揮による「ワルシャワの生き残り」とのカップリングということでネット界隈は盛り上がっていましたが(おかげ様でこのブログの記事にもアクセス多数ありました)、まさにこちらは「ソビエトの生き残り」を見たり、といったところでしょうか。
本命の第九も、非常に素晴らしい演奏でした。ウクライナ国立歌劇場管、このオケは実にリズム感の良いオケですね。2楽章なんかはトリオも含めキレキレの演奏。こっちが本当の「舞踏の神化」かよ、と。ティンパニも炸裂していました。音はデカイんですが、響きはクリアで(だって木で直に叩いてるからね)もっさりしない。3楽章の出だしも、臆せずに頭から朗々と歌う、これですよ。気張って変にミスするよりずっといいでしょ。よくミスるじゃんここ。後半少しダレたけど、ひたすらに歌うのも僕は好きですよ。4楽章の開始なんかはもうね、テンション上がってるからね、ティンパニしか聴こえなかったですね(笑) しかしその後はバランスも良く、歌手とオケの絡みもピタッと揃う。晋友会も上手過ぎるくらい上手い、終演してからはコーラスの最後の1人がはけるまで拍手が続いていました。だいぶ身内だろうとは思いましたが、僕も拍手を送り続けました。
僕はこういう公演を、「年末の第九だしね……」とスルーしてしまうのはやはりもったい無いと思いますし、また逆に年末の第九くらいでしか聞けない(こともないけど)というのも少々もったい無い。良いオケでしたね。少なくとも今年のロンドン響とウィーン・フィルの来日公演より満足感がありました。僕はこのオケの演奏するブラームスが聴きたくなりました。そのくらい骨太で、聞かせどころのあるベートーヴェンでした。年末商戦がなんのその、ご祝儀チケット代くらい払いましょう、その価値があります。むしろ安いくらい。他のぶっ飛び価格の来日公演チケットに比べたらね!
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more