デ・ワールト指揮N響 ベートーヴェン「第9」演奏会2013

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これで2013年のコンサートも聴き納め。N響の第九を聴きに行って来ました。今年は最初に聴いたオケがN響だったので、N響で締めるのが良いだろうと思い、チケット購入。遅めの購入でしたが、なかなか良い席を確保できました。ちょうどそのチケットを買った同じ頃には、都響や日フィルの第九公演はどこも完売でしたが(笑) 25日のNHKホールの第九公演は、演目が第九のみ。翌日のN響第九サントリーホール公演はバッハなどのオルガン作品も演奏される上に、チケット代もちょっとしか変わらないので、音響の面でも演目の面でも、25日の方は割高感が否めませんしね。


N響「第9」チャリティーコンサート(2013年12月25日 NHKホール)
ベートーヴェン 交響曲第9番 二短調 作品125「合唱つき」
指揮:エド・デ・ワールト
ソプラノ:中村 絵理
アルト:加納 悦子
テノール:望月 哲也
バリトン:甲斐 栄次郎
合唱:国立音楽大学


テンポが早めで、多分60数分で終わったんじゃないでしょうか。一人ひとりの演奏者から気迫は伝わって来るのですが、オケ全体としてはそういう生命力が溢れ出すという雰囲気ではなく、音楽がエレガントに流れていくという感じです。ドロドロしていないんですね。不思議な気分でした。デ・ワールトさんの音楽作りについて、さる評論家は「緻密に音楽の響きを形づくりながら、クライマックスへ向けて、きわめて自然な流れで迫真的に盛り上げていく」と評していますが、なるほど、無駄な力みやタメを排除して音楽の自然な流れを意識すると、第九もこんなにスマートな古典派の音楽に聴こえるものなんですね。


スマートだからと言って、これが中身の無いスッカラカンな演奏かというと、それは違うようにも思います。往年の巨匠たちの名演とはかなりスタイルが違いますが、実に21世紀的と言いますか、都市的と言いますか、現代にフィットした第九だったのではないでしょうか。「躍起になって生きていた」という時代の音楽は、それはそれは素晴らしいですし、僕もフルトヴェングラーの第九を心から愛している一人ですが、デ・ワールトの演奏でふと、「ああ、今は21世紀だった。2013年だった。」と我に返されました。どこどない不安にかられ、忙しなく生きる現代人にとっての第九とは、こういうものかもしれない、と。


パンフレットにはデ・ワールトさんのコメントがあり、そこに大きく「平和への願いを込めた《第9》」とありました。デ・ワールト/N響が第九で描く平和とは何なのでしょうか。デ・ワールトさんは、1,2,3楽章ありきの4楽章で、理想郷である4楽章に行けるということ、第九ではそうやって全体像を味わうことが大切だと語っていました。今回の演奏では、そうした全体の流れはとてもよく俯瞰出来ましたが、果たして理想郷そのものの方は如何なものだったでしょうか。歓喜に全身全霊を捧げるようなものではありませんでしたし、特にこの快速テンポで歌わされるソリストたちの歌を聴いていると、理想郷とは調和とは程遠い、個人個人がそれなりに幸福でいられる未来なのかな、と感じてしまいました。それはそれで、確かに現代の理想郷のような気もしないではないのですが。


今回の演奏は、激烈で熱気ある思いの伝達ではなく、ささやかでもいいから現状より良くなりたいという祈りのようでした。来年こそきっと良くなりますように……という、「年末に演奏するための第九」でした。デ・ワールトさんも、その辺りの意識は相当あっただろうと思います。そんな小さな願いの集合体の中に僕もいさせていただきました。

ラフマニノフ:交響的舞曲、幻想曲「岩」、交響詩「ロスティスラフ公」 ラフマニノフ:交響的舞曲、幻想曲「岩」、交響詩「ロスティスラフ公」
ワールト(エド・デ),ラフマニノフ,オランダ放送管弦楽団

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