『黄色の研究』・・・名曲探偵ボクノオンガク、ZYX殺人事件の謎を追う

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この記事のタイトルに深い意味はない。緋色の研究と名曲探偵アマデウスとABC殺人事件です。ミステリーはほぼ古典しか読まないので、特に詳しくはない。


黄色いCDを中古で手に入れた。(怪しい)廉価レーベル、ZYX ClassicのCDで、エベルハルト・クラウスのチェンバロと、クルト・レーデル指揮プロ・アルテ管による、バッハの協奏曲集(BWV1052,1063,1064)。クレジットされている名前はそれだけ。BWV1052はチェンバロ1台なのでともかく、1063と1064は3台のための協奏曲。クラウス1人で3台弾いているとは思えないので、誰か2人、ここから存在が消されている……これは殺人事件だ!


ということで、タイトルに張った伏線(というかパロディ要素)は前の段落で全て回収したので、ここからは普段どおり書くけれども、まあ、CDに書かれていないソリストについてちょっと調べてみようかなと思ったのだ。だいたい、こういうのは見つからない。不毛な行為だと知りつつも、調べたくなるのがオタクのサガってやつ。あと、このCDを入手した前の月に、おそらく世界一詳しいバッハの音盤情報サイト“Bach Cantatas Website”にFlorilegium Musicum RotterdamのBioを寄稿したら載せてくれたので、これで僕も堂々とバッハ通を名乗ってでかい顔してやろうと意気込んでいたのもあった。


冗談はおしまいにして、そのBach Cantatas Websiteで調べてみる。事前情報として、クルト・レーデル(1918-2013)はドイツの指揮者・フルート奏者で、1952年にプロ・アルテ管を設立。エベルハルト・クラウス(1931-2003)はドイツの鍵盤奏者・作曲家。レーデルの方が知名度高いので、まずはそちらの音盤からあたってみる。


Bach Cantatas Websiteによると、クルト・レーデル&プロ・アルテ管がBWV1052を録音しているのは、ロルフ・ラインハートが独奏を務めた50年代の録音のみとなっている。しかし、ZYX Classic盤の黄色CDと同様に、「クラウス独奏、レーデル指揮プロ・アルテ管」とクレジットされたBWV1052は、なんとAppleMusicにもあるじゃないか。試しに聴いてみると、なんとBWV1053が流れてきた。1052じゃないんかい!


よくわからないので、今度はエベルハルト・クラウスの方でBach Cantatas Websiteを検索する。彼が残したBWV1052の録音は、PointClassics盤のみヒット。オケはオイゲン・ドゥビエ指揮カメラータ・ロマーナ。これは有名な幽霊指揮者と幽霊オケだ。ドイツのAmazonにはCDが売っており、見てみるとBach Cantatas Website通りにこの幽霊コンビがクレジットされていた。お、Amazonのストリーミングにもあるじゃん、と思ってそっちを見てみたら、なんとBWV1052の奏者欄に「エベルハルト・クラウス&クルト・レーデル/プロ・アルテ管」と書かれている! しかも、聴いてみると、僕がCDで聴いているZYX Classic盤と同じ演奏なのだ!ということは、この幽霊の正体、見破ったり!ということになるが、実際のところ確証はない。信じるか信じないかはあなた次第です……なんてね。ちなみにストリーミングの方だけなら日本のAmazonにもあった。



このPointClassics盤には、BWV1052の他に1061と1064も収録されている。お、ということは、ZYX Classic盤収録の1064もこれと同じか?と思い聴いてみると、確かに同じ演奏だ。しかし、PointClassics盤のストリーミングの方を見ても、1064の演奏者は「オイゲン・ドゥビエ指揮カメラータ・ロマーナ」と幽霊のまま。ということで、頼みの綱のBach Cantatas Websiteを見ると、エベルハルト・クラウスが弾いたとクレジットされているBWV1064は、PointClassics盤の他にもう1つあり、それにはチェンバロ奏者がちゃんと3名書かれている。しかし、その3名とは、エベルハルト・クラウス、クルト・レーデル、ハンス・ペターミヒル。オケはプロ・アルテ管。いやいや……クラウスはともかく、まかさレーデルが弾いているとは思えない。フルート奏者だし、プロ・アルテ管創設者で鍵盤が弾けたとしても、バッハの協奏曲を録音したりはしないだろう。そしてハンス・ペターミヒル(Hans Petermichl)。誰だ。調べても、この音源の情報しか出てこない。君も幽霊奏者なのか……。


結局のところわからないんだけど、一応ですね、答えの「候補」ならある。一つは、エベルハウト・クラウスのWikipedia(ドイツ語)には、この録音はクラウスが三重録音していると書いてあり、可能性としては一番高そうなんだけど、ソースがないから正解だと断定できない。もう一つは、PointClassics盤の原盤かもしれない、収録曲が同じレーデル指揮プロ・アルテ管のLP(Sonopresseレーベル)にクラウスの他にクレジットされている、Helmut Laufer, Kurt Wranglerという人物、しかしこのLPを持っている訳ではないし、人物たちを調べてもまったく情報がなく、幽霊の可能性もある。状況証拠的にはクラウスが三重録音し、何らかの事情で幽霊奏者の名前を入れていると考えるのが筋だが、まったく別の名前を出せない奏者(権利上の問題か、あるいはクラウスの知人友人弟子等)が弾いて幽霊をクレジットしたとも考えられなくもない。


最初にも言ったけど、だいたいこういうのはわからない。わからないんだけど、調べていく過程で様々な情報が出てきて面白いのだ。でも、ちょっと悔しいね。Bach Cantatas Websiteのサイトに名を刻んだ数少ない日本人(多分)であり、(自称)日本バッハ界の大御所の名折れだ……。そうそう、3曲の肝心の演奏はというと、オールドスタイルで悪くないですよ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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