【序文】
Twitterを始めて、そこでは「土曜の夜はクラシック以外の音楽の話」と銘打って、その通りクラシック以外の音楽の話を少しだけしている。僕自身ピアノだけでなくドラムやシンセサイザーをやるのもあって、クラシック以外にも好きな音楽はたくさんあり、それを紹介したいと思いつつ、あんまりそっちに力を入れてブレちゃうのもどうかなと思い、週1のツイートに抑えている。が、それも随分たまったので、ちょっと改変して転載したいと思った次第。
本当に適当に、マイブーム的に聴いて気にいったもののときもあれば、昔から好きなものもあるし、好きなものを好きなように書いているだけ。何かの参考になるかどうかは微妙ですが、まあご笑覧ください。
Mulatu Astatke & Black Jesus Experience
2020年9月26日
エチオピアの巨匠、エチオ・ジャズの生ける伝説ことムラトゥ・アスタトゥケの新譜が出たから聴いた。熱い。Mulatu Astatke & Black Jesus Experience名義の“To Know Without Knowing”(2020)、ペンタトニックで和の心もくすぐる(そういうこと言うと怒られるかしら)、アフロ/レアグルーヴの新名盤であると言えよう!
ムラトゥは76歳、ブラック・ジーザス・エクスペリエンスは2008年結成のオーストラリアのバンドだそうだ。「クリエイティビティに長けたパートナーシップと、豊かなメンターシップが育んだ集大成」とか、「ミニマルなビートと色彩感が調和する官能のグルーヴ」との評がありました。アルバムから、“Kulun Mankwaleshi”を公式のYouTubeでどうぞ。
上の曲、元はエチオピアの結婚式ソングらしい。ガーディアンの記事もありますのでどうぞ。これ“perfect for the festival season we are sadly missing”って書いてあるけど、本当だよね。早く平穏が訪れて欲しいわ。
Tigran Hamasyan
2020年10月3日
現代ジャズの最注目株、アルメニア出身のピアニスト、Tigran Hamasyanの8月に出た新譜、“The Call Within”(2020)を聴いた。最高だ。コミタス、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、ラヴェル、シュニトケ、リゲティをよく聴くと語るのも納得の音楽。
とりあえず同盤M1の“Levitation 21”を公式YouTubeのMVで聴いて、ブチ上がってください。民謡だけでなく、詩歌、アルメニア民話、天文学、幾何学、古代アルメニアの意匠などから霊感を得て作ったアルバム。自身の内なる世界を探求したと語るティグラン、ぜひアルバム全曲聴いて欲しい!
Mikikiのインタビューもぜひ。これほとんど譜面書いてるそうです。「自分としては現代の民謡を作曲しているつもりでいる」と語る、すごいっすね。うーん、やっぱ最高。
Albert Collins
2020年10月10日
何週か2010年代の音盤が続いていたので、古典に行きましょう。古典は古典でも、変態ブルース・ギターの古典、Albert Collinsの名盤“Ice Pickin’”(1978)。こういう肩のかけ方ってどうですか。僕、今はショルダーバッグなんてめったに持たないけど、子どもの頃から片肩にかけるのって、なんか不安になるから無理だったわ。やってみると意外と落ちないけどね。ギターはどうなんでしょう。知らん。
まあまあ語り尽くされている名盤の割に、あまり日本語で話題にならないのがM7の“Conversation with Collins”、なぜ話題にならないかって、これはその名の通りコリンズがほぼ愚痴ってるだけで、メロディーが大してないからなのかなと思うんだけど、これはね、僕も二児の父となった今はよーくわかる、これ、これはブルース、これは確かにブルースだよ(笑) YouTubeにはLiveも上がってます。歌詞を聴こうね歌詞を。
あまり音楽的な話をしていませんが、別にいいでしょ。今年の7月に書かれたブログ(日本語)で、アルバート・コリンズの変則チューニングについて検証した記事がありますので、こちらもどうぞ。オチが良いね、そんなもんなんでしょうね。
Terri Lyne Carrington
2020年10月17日
天才ドラマーTerri Lyne Carringtonが、女性アーティストを集めて作った“The Mosaic Project”(2011)の続編、“The Mosaic Project: Love and Soul”(2015)を。ジャズ強めの前作に対しソウル/R&B寄りの今作もディーヴァの魅力全開、良いぞ!
このモザイク・プロジェクトは、ドラマーとしてのテリ・リン・キャリントン以上に、プロデューサーとしての面が強調されますが、2011年の方はグラミー賞も受賞しています。「社会を反映した」と語り、2011年に女性ジャズ系ミュージシャンのみで作った名盤、聴けばわかるクオリティの高さ。
両作の主な招集メンバーは以下。2015年の方は「女性を称賛するとき、男性を排除したような形には絶対にしたくない」と語り、男性音楽家の曲のカヴァーでも自身のオリジナルでも、「本作では女性が男性ととってきた様々な関係を称賛したい」とも語るテリ・リン・キャリントン。こういうの、揉めます?ともあれ、称賛も批判もまずは「音楽」を聴いてから。
普段なら土曜の夜で完結させるんだけど、これはつい日曜の朝まで引っ張っちゃいました。テリ・リン・キャリントンの“The Mosaic Project: Love and Soul”(2015)に参加したアーティストで、土曜の夜コーナーで以前取り上げたアーティストもいるので、再掲した。以下ご参考まで。
まずはオリータ・アダムス、歌うのはルーサー・ヴァンドロスの“For You To Love”のカヴァー。まさかの5拍子に改造されたバージョンで、外されるビート感覚、パワフルなオリータの歌、フュージョン系のバックも楽しい。
リズ・ライトも取り上げた。リズが歌うのはパトリース・ラッシェンの”When I Found You”のカヴァー。原曲の可愛らしいさは取り払われて、リズらしい力強くも落ち着いた低音の魅力あふれるソウルフルな歌に。バックも多人数で凝ってます。
Die Blauen Pilze
2020年10月24日
やはりね、クラシックと同じで、ド定番の名盤とかよりも、意味わからん誰が聴いてるのか謎、みたいなのを取り上げて、一人で悦に浸りたいオタクなんですよ僕。Die Blauen Pilze、直訳すると「青いキノコ」、ドイツの(怪しい)インストバンドのセルフタイトルのアルバム(2016)を紹介したい。名前も奇妙だけど、聴いてみると音楽も奇妙、かつ、どこか爽やかな音。ポップ、ロック、フュージョン系か……謎だけどクセになるんだなあ。
浮遊感ある音色にロックなビート、謎にハイセンスなモード。YouTubeで新譜(?)の“Shinkansen”が公開中。公式サイトには他曲も→https://dieblauenpilze.com
ジャケには日本語、動画には東海道新幹線の車窓まで映っているにもかかわらず、この青茸バンドさんは日本では知名度ほぼゼロ。日本の皆さん、ぜひ聴いてあげてね!
ちなみにインストバンドと言えば、僕がずっと推してる、というかこの土曜の夜のコーナーをやろうと思ったきっかけになったLimousineも、久しぶりに上げておこうか。Limousineはフランスのバンド、Die Blauen Pilzeはドイツ、なんかね、聴いてもらえばわかりますが、もう、めっちゃそれっぽいのよ(笑)
American Gypsy
2020年10月31日
結局、意識しないとファンクかワールドミュージックの話に寄ってしまうと自分でもわかっている。さて、ファンクの話をしよう。ロサンゼルスで結成し、オランダで一世を風靡したファンク・グループ、American Gypsyが1975年にリリースしたセルフタイトルのアルバム。1曲目“Inside Out”の謎のイントロで一笑いした後は、ソウル、アフロ風味もある味わい深いファンク。カッコイイ!
なぜオランダでヒットしたのか不明ですが、70年代の欧州ツアーで火が付き、その後もオランダでリリースがあるらしい。個々のメンバーは当時からバリー・ホワイトやバーズ、ラスカルズ、フランク・ザッパ、ジェファーソン・エアプレイン、ドクター・ジョン、サンタナとセッションしていたとか。すごい。
ダミ声ヴォーカルも、ふんだんに用いられたストリングスも、時代を感じますね。
ちなみに、何でもあるYouTubeさんでAmerican Gypsyと検索すると、同名の別バンド(2010年代結成のロック系)も出てきますのでご注意。↓は先のツイートで紹介した盤の別ジャケ版です。
Belle and Sebastian
2020年11月7日
下手したら十何年も聴いてなかった、グラスゴー出身のバンド、Belle and Sebastian、通称ベルセバ。1stアルバム“Tigermilk”(1996)を聴いたらなんか懐かしくなって。M4″You’re Just a Baby”、好きだなあ!昔から好きだったけど。なおこのジャケットの女の子は、Voスチュアートの当時の恋人だそうです。
ということで最近は90年代のベルセバをよく流していた。これは2ndの“If You’re Feeling Sinister”(1997)、邦題「天使のため息」、通称赤盤。当時は公式リリースはこれだけ、Tigermilkは限定盤のため、みんな赤盤から聴き始めたそうだが、僕は後から入った人なのでTigermilkが初体験でした。
もう一つ90年代のアルバム、“The Boy with the Arab Strap”(1998)、通称緑盤。レビューで暗いと書かれがちだけど、言うほど暗くないし、むしろこういう控えめなのが絶妙なんすよ……。ベルセバは楽器のチョイスやオーケストレーションも素敵。しばしヘビロテ、楽しみました。
Zapp
2020年11月14日
先週のベルセバもドライブのお供にしていたが、これもそう。Zapp & Rogerのベスト、“All the Greatest Hits”、2007年リリース。トークボックスも、数々のHIP HOPにサンプリングされる“More Bounce to the Ounce”と“Be Alright”から始まる。熱いぜ!
“Be Alright”は2Pacの“Keep Ya Head Up”でサンプリングされたのがあまりにも有名。あんまりHIP HOPの話はしないように心がけているんだけど(なんてったってこちらは「高尚な」クラシック音楽のアカウントざます)、HIP HOP実は大好きなんですよ。でもまあ、これは原曲が良過ぎなんだよね。最高のグルーヴ、のんびり横ノリなのにドラムだけ暴れる!絶妙!
とにかくサンプリングされまくる“More Bounce to the Ounce”、EPMDの“You Gots To Chill”(下リンク)は原曲そのまんまわかるクラシック。Daddy-O、Ice Cubeも有名かな。Snoop Doggはじめ西海岸にも愛されがちな、Zappのクセのあるファンク、当然ドライブ向きですよ。
Jockstrap
2020年11月21日
「ロンドン・オルタナティブ・シーンの新星」ことJockstrap(すごいバンド名だ、知らない人はこの単語で画像検索してほしい)が2020年6月にリリースしたEP、“Wicked City”。ジャケットは気持ち悪いのでTwitterでは自主規制しましたが、ブログなら良いでしょ。音楽は新星の呼び声も頷ける、めちゃ良いぞ!
イギー・ポップが「彼らは非常にクラシックな構成の曲作りをしていて、しかも完璧にそれを習得している。彼らの音楽を聴くと興奮するよ」と評するジョックストラップ、本人たちは「クラシックの構成とダブステップ」の影響が大きいと語る。↓の曲は“The City”、ぜひ最後まで聴いてほしい。
同EPの“Acid”という曲は、シャネルの2020/21年秋冬オートクチュール・コレクションのキャンペーン・ビデオのサウンドトラックにも起用されています(下リンク)。これもまた良い!シャネルも認めるジョックストラップ(ファッション業界だと尚更実物っぽいな笑)、要チェックですよ。
Karasol
2020年11月28日
この人たちも日本ではまったくもって話題を見ることがない、Karolina Trybała(vo, perc)とSilvio Schneider(gt)のジャズ・ユニット、Karasolによるアルバム“In Your Wild Garden”(2016)。ラテン、フラメンコ、ワールドミュージック的な、アンプラグドなジャズ。こういうのも好きなんですよ。良いよね。
定番ならM1で惹き付ける“Caravan”やヴィルトゥオージティ感溢れる“Spain”(ツイートしたときにはまだチック・コリアご存命であった。RIP)、ンテヴェルディの“Si Dolce e Il Tormento”(苦しみはかくも甘き)もある。もう消えてしまったようだが、YouTubeの動画でルベン・ラダの“Sud Africa canción antigua”を元にした”Amaramalaya”という曲のLive版がった。アフリカらしいフレームドラムも叩いており、良い雰囲気だった。
インスト曲の“Crossroads”も良い。Vo&percのカロリナ・トリバラはポーランド生まれ、16才でドイツ移住。メンデルスゾーン音大やチューリッヒ芸大で学んだ後、世界を飛び回り幅広く活動。シルヴィオ・シュナイダーはドレスデンでギターを学び、こちらも幅広く活動。良いペアですね。
Jazz Funk Soul
2020年12月5日
Jazz Funk Soulの“More Serious Business”(2016)を紹介しよう。これもすごいバンド名だよね。フュージョンやスムース・ジャズの名手による「ジャズ・ファンク・ソウル」というバンド、なんだか何を言っているかわからなくなってきました。「そば・うどん・らーめん」という店名のパスタ屋さんあったらどう思うよ。
名前は意味不明だが、メンバーはすごい。ジェフ・ローバー(key)、チャック・ローブ(gt)、エヴァレット・ハープ(sax)という界隈の大御所。それだけの人が集まれば当然だけど、もうね、こなれた感じがすごいのよ。特にこの前作に当たるセルフタイトル盤と比べると尚更そう。All About Jazzの評は頷ける。革新や独創性はなくとも、良い音楽なのは確かだ。リンクはこちら。
M8“The Love”のsaxとgtが最高。聴いてね。なんかね、自分も年を取って、段々とバラードの良さも染みるようになってきたというか。例えばsaxなら、マイケル・ブレッカー(先日Twitterで挙げたジャコ・パストリアスのバースデイ盤にも参加していましたね)の“Nearness of You: The Ballad Book”とかも、昔は「なんかなー」って感じだったのが、今はずっと好きになった。そういうものかもしれない、なんてね。
Ibrahim Maalouf
2020年12月12日
皆大好き微分音トランペット、アラブ風薫るジャズ奏者Ibrahim Maaloufの新譜“40 Melodies”(2020)。マーロフ40歳、過去作40曲をギターとのデュオで。サンドヴァル御大、クロノス・カルテット、マーカス・ミラーやリチャード・ボナも参戦!すごい!なおこの「皆大好き微分音トランペット」は2020年の僕のパンチラインとして受け取って欲しい。みんな大好きだろ!
イブラヒム・マーロフは仏のレバノン系トランペット奏者。父はモーリス・アンドレの弟子で、微分音トランペットは父がアラビア音楽のマカーム(مقام)を吹くために製作したもの。上盤の貴重な日本語の記事がムジカテーハさんにありました。
上のはギターとのデュオがメインなので、もっと激しめのなら、“Kalthoum”(2015)なんかも良い。これも好き。アラブ歌謡の女王ことエジプトのウム・クルスーム没後40年にあたり、彼女へのオマージュとしてカヴァー、というかアレンジしたもの。これはブチ上がりますよ、カッコ良すぎる。聴いてね。
一応クラシック音楽ブログとしては、愛聴盤の“Levantine Symphony No.1”も紹介しておこう。これはなんとNMLにもあり、イブラヒム・マーロフ作曲/指揮の「レバント交響曲第1番」として配信されていた。パリ響とオー=ド=セーヌ県少年少女合唱団とクレジット。クラシック音楽ファンのみなさん、敷居を跨いで聴いてね!
カルロス・ゴーンで話題になったし、2020年はレバノンの音楽を色々聴いてみようかな、なんて呑気に思っていたのが2020年の頭、しかしコロナ騒ぎですっかりそんなことは忘れてしまい、忘れた頃に今度はベイルート爆発があり、わけがわからない。もっとも、レバノンの音楽家たちの混乱とは比でないでしょうが。
2月にはこんな記事を書いていたのでした。
Choro Club
2020年12月19日
2020年は武満徹のメモリアルイヤーでもあった。ということで武満のCDをTwitterで挙げたのもあり、こちらの企画でもChoro Clubを挙げよう。今週は寒かったし、しばらく沖縄に旅行も行けないし、『ニライカナイ』(2002)という名盤を。NHKの朝の連ドラ「ちゅらさん」のおばぁ役、平良とみさんによる語りと音楽が絡む、さながらドラマCDのような1枚。
平良とみさんのうちなーぐちによる語りの魅力はもちろん、音楽が素晴らしい。語りの付随音楽としての良さもあるけれど、ただのBGMというわけでもあらず。1曲目「海の子守歌」もいいし、「星砂の伝説」のバック演奏も素敵だ。これは民話自体も素敵だし、流れるように「童神」へ入るのも良い。あー沖縄行きたいよー沖縄。
寒いから「ニライカナイ」、生誕90周年だから「武満のソングブック」と理由つけて書いてるけど、じゃあ「ヨコハマ買い出し紀行」のサントラを挙げるにはどんな理由が要るかな。コロナ後の世界を想像して……なんて書いたら不謹慎ですか?でも穏やかな音楽で良いよね。いや、実はOVA見てないんだけどね。漫画は好きよ。
小沢健二
2020年12月26日
2020年最後の土曜の夜コーナーは小沢健二の「刹那」(2003)にした。2020年、こんなにもクリスマスの夜が「ウキウキ通り」じゃなかった年は今までなかったんじゃないの?せめて音楽だけでも、めちゃめちゃポップで明るいこのアルバムで〆させて!
これをツイートした前日のMステでも、「刹那」にも収録されている「強い気持ち・強い愛」を歌ったそうです。ここ何か月か「刹那」を車でもたまにかけてたので、Mステで流れた途端、5歳のうちの子が「あ、小沢健二だ」と言ったのは笑った。5歳児いわく、この曲は好きだそうです。あと、こんなのツイートしてたわ(笑)
星野源も好きだと語る「痛快ウキウキ通り」は、軽そうな雰囲気に見せかけた暗いダメ男の歌に見せかけた前向きなクリスマスソングなので、2020年の12月26日には良いんじゃないでしょうか。ということで「関連記事」のこちらもどうぞ。
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more