高木さんめ……

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2024年6月、Twitterにも書いたけど、映画「からかい上手の高木さん」を観た。いわゆる漫画原作の実写映画というやつだ。原作ファンかつアニメのファンとしては、昨今何かと世間を騒がす「実写化」に不安と期待が半々のような気持ちだったのだけど、結果、とても良かったので結構満足している。別にそんなに熱烈なファンのつもりではなかったけど、僕にしては珍しく、原作マンガからテレビアニメ全シリーズ、劇場版アニメ、実写テレビドラマと実写映画まで、全部見てしまった。ということで、せっかくなのでブログに何かちょっと書いておこうと思ったのだ。


実写映画の前にテレビでドラマシリーズの放送があり、まあ完全に映画の前フリなのだろう。僕はテレビドラマというものが苦手で、基本的には見ない。子どもの頃は見てたけどね。以前クラシック音楽の記事でも少し触れた通り、今も気が向いたら極稀に見ることはあるし、その辺の理由はまた別の機会に書くと前に言ったので、せっかくなのでその話もここに書いておこう。

僕がドラマを見ない最大の理由は多分「これ以上鑑賞するものを増やせない」という趣味における諸々の制約の問題だけど、テレビドラマ「だけ」見ない理由は、上手く言えないけど「本物っぽい分、偽物感が増す」からなんじゃないかと思っている。自分の中で納得できる鑑賞方法を習得できていないのだ。ドキュメンタリー番組は見るし、実写でも映画館でなら、それなりに集中しているから見られなくはない。アニメは好きだし、もっと言えば演劇やミュージカル、オペラも見る、むしろ大好き。なぜなら、それが「完全に作り物、フィクションだ」というのが伝わるから。だから、これは作り物なので何やっても不思議じゃないよねと納得できる。オペラやミュージカルで突然歌い出すのも、そういう演出だと理解できているので何の不自然さも感じないのに、テレビドラマを見ているときには「いやオフィスで突然音楽流れないだろ!」とか「普通レストランで、こんなことで大声で喧嘩しないだろ!」とか、見た目が現実に近い映像の分だけ、細かい現実との差、違和感が際立って見えてしまい、突然冷めてしまうのだ。舞台芸術の方が、自分の頭で何でも補ってしまえるから違和感がない。テレビドラマだと、ダラダラ見たりCMもあったりで集中せず雑念が入りやすいし、現実と同じ映像だから脳があまり補おうとしない、って感じ。実写でも、海外の映像だと自分が住んでいないからか不自然さを感じないし、古ければなおさらだ。昔の洋画なんかは結構好き。ドラマなら「シャーロック・ホームズの冒険」みたいに、誰がどうしたって作り物だとわかる、しっかりフィクションとして見れるのは好きだったりする。邦画でも古ければ問題なく見れてしまうのは、僕がその時代を生きていなかったからかも。最近の日本のテレビドラマでは「半沢直樹」を見たんだけど、あれは演者たちが絶叫しまくって、もはや現実を超越していて、逆にああいう演出のエンタメとして見れたのかもしれない。歌舞伎役者が出てきて、歌舞伎みたいなことやってる感じでね。

漫画「らき☆すた」2巻で主人公の泉こなたが、ガンダム好きで全シリーズをリアタイしているお父さんに対し「じゃあさ、ガンダム連続殺人事件とか、名探偵ガンダムみたいなのが始まっても見るの?」と尋ねると、お父さんが「ぐっ、ガンダム好きなら……見ないといけない使命が!!」と泣きながら答えるんだけど、僕はこなた父のような気持ちで「高木さんファンの使命」で、頑張ってテレビドラマを8話見た。まあまあ、面白かったですよ。見ればね、わりと何でも面白いのよね。


ドラマ放送前の情報を見たときには、大丈夫か、西片役の黒川想矢くん、ちょっとイケメン過ぎないか? 西片だぞ? この作品って、同級生の可愛い子がさ、相手はそんなにイケメンじゃないのに、きっかけがあればコロッと好きなってしまうってところが、素朴な中学生的リアリティなんじゃないのか、なあ! と心配していたが、第1話を見て、むしろ高木さんより西片の方がバッチリはまり役でびっくりした。たどたどしさが凄く良かった。見進めると、ますます西片が良い。というか、中学生男子たちの再現度が高くて驚いた。高尾がイケメン過ぎだろ……とは思ったが、西片と中井くんに関しては、彼らの演技が棒読みであればあるほど、リアルな男子中学生っぽくて、本当に良い。最高だった。一方、高木さん役の月島琉衣さんは、ちょっと原作とイメージが違って残念だった。肝心の高木さんへの違和感は一大事であり、見る気を失いそうになったけど、彼女自身がとっても可愛くて素敵なのが救いだった。実際にクラスにいたら好きになってしまいそうなんだよなあ。うわー、かわいいなあ、タイプだなあ、なんて思っていたので見続けることができた。他の女子たちも、個人的な見解だけども、みんな原作キャラとは別物の印象。特にミナと真野ちゃん、そんなに出番が多いわけでもないが、真人間になってしまったように見えた。ド天然だったり、恋愛脳だったり、そういう子って、マジで引くくらい変人なんだよな、このくらいの年頃って。いや今の中学生がどうなのか知らないけどね。少なくとも僕の中ではそうだわ。だからぶっ飛んだままでいてほしかった、その方がリアルで受け入れられたと思う。北条さんはめっちゃ良かったわ、実際にいたらあんな感じだろうな。

そもそも、アニメでは梶裕貴と高橋李依が演じる主人公を、ティーンの俳優がやったって演技力で比較になる訳がないのだ。その点、素のまんま、棒読みでも逆にガキっぽいリアル男子中学生らしさが加点になる西片と、あるときは年相応だったりあるときは大人ぶったり、からかったり澄ましたりして演じるのが難しいキャラである高木さんでは、どうしたって差は生じる。別に演技について詳しく言うほど僕も通ではないんだけど。演技という点では、そりゃ田辺先生役の江口洋介が一番良かったよね。若い俳優さんたちは、今後の活躍に期待しよう。応援しています!


もうひとつ、実写ドラマで良かったところは、小豆島のロケである。小豆島はこの作品の舞台であり、原作者、山本崇一朗先生の出身地でもある。ドラマ第1話を見たとき、原作の第1話と、原作ではかなり後半に出てくる話である「夕日」を持ってきていて、舞台である小豆島を印象づけるとても良い導入だと思った。僕がドラマで苦手にしている「妙なリアリティ」が、舞台や背景という点で良い方に働いたのだ。小豆島であることの良さは、漫画やアニメよりも、実際の小豆島の映像が一番なのは当然のこと。久しぶりにリアルな小豆島を見た。とてもきれいな場所だ。僕は少年時代に小豆島に行ったことがある。子どもの頃は新潟に住んでいたけど、いとこの家族が転勤族で、ちょうどそのとき香川にいたので、確か2回遊びに行ったはずだ。小豆島に行った思い出はもちろん、高松で讃岐うどんの美味しさに感激したのも、いとこたちと一生懸命「こんぴらさん」の階段を上ったのも、レオマワールドという遊園地に行ったのも、女木島で海水浴したりバーベキューしたりしたのも、良い思い出だ。山の形にも驚いたな、子どもが絵に描くような形の山。今やアニメの聖地として町おこしにも繋がっているようだ。

小豆島土庄町の舞台訪問マップなるものもある。画像掲載元:アニメ公式ホームページ

僕も子どもの頃のことをだいぶ忘れているけど、小豆島はそんな理由で楽しい思い出と結びついているので、小豆島が舞台であることの喜びは実写ドラマ、実写映画ではひとしおだった。映画けいおん!でメンバーが泊まったロンドンのホテルが、僕が学生時代に行って泊まったホテルと同じだったときくらい、それ以上に嬉しい気持ちだ。

大人になった主人公たちが活躍する映画は流行っているのか、ゆるキャンもそうっだたし、何よりアイカツがそうで、アイカツに関しては信じられないくらい丁寧に作られていて、もう「未来の主人公」系の話でこれを超えることはないのだろうけど……実写の映画「からかい上手の高木さん」も、大人だからといって裏切られるようなものではなかった。使命感で見た割には大満足だ。良い恋愛映画だった。

映画公開前の情報を見たときには、大丈夫か、西片役の高橋文哉くん、ちょっとイケメン過ぎないか? 西片だぞ? 文哉くん、ぐるナイのゴチだとおもしろ人間だけど役者としてはどうなんだろうと勝手に心配していたが、びっくりするくらい、実写ドラマの黒川くんが演じる中学生西片と似ていて、一気にハートを掴まれてしまった。口調や身振り手振りが黒川くんと文哉くんでそっくりそのまま。これは文句言えんわ。すごいなあ。永野芽郁の高木さんは、僕の妻いわく「子役の子より似てるんじゃない?」とのことだったが、個人的には、まあ似てるっちゃ似てるかな、うーん、って感じで、妻はそのまま「永野芽郁、はたらく細胞の実写映画で赤血球だって。白血球は佐藤健だって。こっちの方が合ってる(笑)」と言ってたのに概ね同意。まあそれはともかく、ちょっとの違和感を持ちつつ映画を見ることになったし、そもそもスピンオフ漫画「元高木さん」で高木さんは専業主婦になるという確定した未来があるのになんで教育実習生として小豆島にやってくるんだよ、なんだよその設定、あとドラマでもそうだけど高木さんがパリ行ってそんで帰って来るってなんだよ、ふざけんなよ、どうして実写は勝手な改変するんだよ、というモヤモヤは、まあまあ、映画のストーリーでは「元高木さん」という確定した未来と齟齬なく繋げてくれた感じもあり、そこまで不愉快ではなかった。原作とアニメで、儚くも尊い中学生のピュアな恋愛を描き、スピンオフの育児漫画では美しい家族愛を描き、現実であれば一番汚くならざるを得ない高校大学から結婚前までのストーリーをいつか埋めてくれるのかなって思っていたけど、実写映画でそこを上手に綺麗な筋書きで埋めてくれたのは、いわゆる「正史」ではないにせよ、悪くなかったと思っている。映画の白眉、ラストのワンカット長尺の語りでは、人を好きになるということを不器用ながら丁寧に紐解いていって、とても良いシーンだった。そんなテーマをあえて「高木さん」でやる必要があるのかどうかは別に論ずるしかないが、主題そのものは映画で表現するに値するものだったと思う。

高木さん実写映画がフォーミーかノットフォーミーかで言えば、余裕でノットフォーミーだ。だけど僕がそもそも「からかい上手の高木さん」という作品が好きなのは、本当に様々な点でフォーミーな話だからである。つまり僕が少年時代に、自分のことを好きな女子からちょっかいを出され続けたということ、女の子側は精神的に成長しているのに対し自分は未成熟なためそこまで「好き」ということ――相手が自分を好きなこと、自分も相手を好きなこと――を認識できなかったこと、そんな経験を思い出させてくれる、こそばゆい物語なのだ。そんな年頃のときに、僕は小豆島に行っている。しかも、僕は西片と同じ、かに座のO型。これはもうね、僕のことを西片と呼んでくれて構わない。今年はキャンプ行かない予定なので。

そんなんだから、漫画でもアニメでも、非常に食らいまくってしまったのだ。あまりにもわかる、思春期の「あるある」として実感できる出来事ばかり、それがコミカルに、かつ尊く描かれていて、そうだ、これは面白おかしいけど、かけがえのない尊いものだったのだと思い返させるのだ……だからアニメ劇場版を映画館で見るのは、一種の精神のスポーツのようなものだった。わざわざ自分の心をグラグラと揺さぶりに行く、これもまた快楽なり。アニメシリーズの一連のカヴァー曲エンディングも、世代的にぶっ刺さりだった。ドンピシャ。これも大きい。フォーミーの極み。「AM11:00」もそう、「小さな恋のうた」も「出逢った頃のように」もそう。カヴァーアルバムも最高だ、「スノーマジックファンタジー」なんて全然聴かない曲だけど、高木さんが歌ってくれるから好きになっちゃったよね。実写映画はどの辺がメインターゲットなのか謎だけど(俳優目当て勢のあたりかな)、アニメ劇場版はまさにフォーミーもフォーミー、僕のためにやってくれているようなもの。なにしろ僕は「西片役」ですからね! だから劇場版のエンディングで「明日への扉」が来たときはもう天を仰いだ。別に見たくもないのに話を合わせるために「あいのり」見てた頃を思い出し、この曲はまた自分にとって「高木さん役」の子とは別の恋愛の思い出の曲でもあり、予想外のダメージを受けてしまった。うう、さすが高木さんだ……。ちなみに「天体観測」はカラオケの十八番、「fragile」もあいのりだから同じである。「君に届け」はさすがにね、2011年の曲だからね。でも良い曲だし、刺さる世代もいたことでしょう。

「からかい上手の高木さん」Cover Song Collection(TVアニメ「からかい上手の高木さん」エンディングテーマ)
高橋李依


そんなこんなで、どのメディアでも楽しませてもらいました。漫画の話をあまりしてないな。一番良いですからね、原作がね。ただ漫画では第2話に「プール」という話があり、思春期の女子が生理をネタにして男子をからかうという、あまりにえげつない話で、これも実際「あるある」として僕は消化できるんだけど(実際あったからね)、多分受け入れられない人もいるだろう。これを「オタク向けのマンガ作品の気持ち悪さ(下品な媚)」と取るか「あー、マジでこういうことする女子いたわ……」と取れるかで、かなり変わってくると思うんだよね、これ序盤も序盤、2話目だからね。どこまでフォーユーかわかりませんが、興味のある方はマンガでもアニメでもドラマでも映画でも、何でもあるので見てみてください。ところで、アニメだと1期の第7話、原作だと単行本5巻かな、「水着」という話があり、あまりエロ要素を全面に出さないこの作品の中で数少ないほんのりエロい話なのだが、これ、どのくらいみんな「あるある」として見れるのかしら。この年頃でさ、あんな至近距離で、ほぼ両思いみたいな関係で、女の子だけが水着に着替えるって? どうよ? エロ漫画か? キモオタの妄想か? まあね、なんとでも言いなさいよ。言っとくけど、僕はこの経験、「ある」からね。フォーミーなんだわ。実写ドラマと実写映画は基本的にきれいなところしか表に出せないだろうけど、漫画とアニメには、単なるほんわか青春コメディを超えた、生々しいほどのリアルがある。そうそう出せないよ、この感じは。ああ、いったいなんて作品なんだ、やってくれるな、高木さんめ……。

からかい上手の高木さん(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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