ラフ 交響曲第7番「アルプスにて」:アルプスには湖がよく似合う

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ラフ 交響曲第7番 変ロ長調 作品201 「アルプスにて」


スイス生まれの作曲家、ヨアヒム・ラフ(1822-1882)。このブログでは初めて取り上げる。結構好きな作曲家で、割と長く愛聴しており、最近、でもないけど、2021年5月に出た歌曲集は当時Twitterでも取り上げた。ラフの声楽作品の録音はかなり珍しい。


ラフについてずっとブログに取り上げなかったのは「妙に人気があったから」というのが主な理由だ。自分でも本当にひねくれていると思うが、わかる人もいるかな……推しのインディーズバンドがメジャー行って人気になったら急に冷めたりする、アレよ。ラフの作品は、マイナー作曲家を掘り進める趣味の人はもちろん、そうでないクラシック音楽ファンにもそこそこ人気だと認識している。要は「ラフは有名でないけど良い作曲家だよね」と思っている音楽ファンは意外と多く、そういう意味ではもう有名作曲家グループに片足突っ込んでいると言っていい。本当に有名でない人や作品は、本当に、誰も話さない。


僕は性根が歪んでいるので、「マイナー発掘趣味」でない人たちがラフを称賛するのを目にする度に、うんうんと頷くのと同時に、皆が話してるから僕は話さないぞ、と引いてしまっていた。もうこれは、性格なのでしょうがない。だからこそ誰も聴かないようなラフの歌曲集に興奮するのだ。
同様に、僕がなぜ交響曲第7番「アルプスにて」を取り上げたいかというと、クラシック音楽ファンの大多数が「アルプスの音楽=R・シュトラウスのアルプス交響曲」という認識だと思うから。これが理由だ。アルプスのオーケストラ作品はリヒャルトの独壇場ではないのだと言いたいだけ。ね、ひねくれてるでしょ。ラフを挙げるくらいでイキってるんじゃねーよ!というガチ勢の方は、10年前に書いたファビアン・ミュラーの交響的スケッチ「アイガー」の記事にでも行ってください。偶然だけど10年越しでアルプスの山の音楽で記事更新するとは、ちょっと嬉しい。リヒャルトのアルプス交響曲についてはブログ記事書いていません、ごめんなさい。ちなみにラフの描写的で多くを語る音楽性は、リヒャルトにも大いに影響を与えたと言われている。
さて、こんだけマイナー志向マニアック志向な話をしておいて言うのも恥ずかしいんですが、なんで山の音楽を取り上げようと思ったかというと、今月、高尾山に行ってきたからなんですよね……超メジャーな山じゃないか!(笑) 僕自身は、キャンプは好きだけど、登山にはさほど興味はない。それでも、晴天に恵まれて小川に沿った自然探索路を歩いて登ると、ちょっと山の音楽の話をしてみようかな、なんて思うのであって、やはり自然は偉大だ。


そういう理由で交響曲第7番を選んだのもあり、特別にこの曲に思い入れが深いわけではなく、11番まである交響曲はどれも素晴らしい曲ばかり。人気が出るのも納得である。有名所は第3番「森にて」や第5番「レノーレ」など。
ラフは1849年(27歳)からフランツ・リストの助手を務めていたが、1856年に独立。その理由にはリストの愛人関係(ミューズであったカロリーネ・ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人のことか)に嫌気が差したのもあるようで、ラフの人柄がうかがえる。ヴァイマールを去りヴィースバーデンに居を構えたラフは、1877年にホッホ音楽院の院長としてフランクフルトへ引っ越すまで、20年以上ヴィースバーデンで過ごした。
ラフが交響曲第7番を作曲したのは1875年、実り多いヴィースバーデン時代の最後の方で、同年12月30日にヴィースバーデンで初演された。4楽章構成で50分ほどの長さ。アルプスがテーマなのは、ラフの幼少期の思い出と関係している。ラフはスイスのチューリヒ湖畔の街ラッヘンに生まれ、子どもの頃に家族で近くの街シュメリコンへ引っ越し、さらにルツェルン湖に近い街シュヴィーツへと引っ越しをしており、第3楽章で湖を描いているのも納得である。また、1875年はラフの母が亡くなった年でもあり、その辺りのことも関係しているかもしれない。
初演当時はあまり評判は良くなく、ラフが多作家だったのもあり批判されがちだったようで、この曲も書き過ぎと批判されたそうだが、まあリヒャルトのアルペンに慣れた現代人の耳には、それより40年も前に作られたラフの交響曲にそのような印象を抱くこともないだろう。

ラッヘン。引用元:Wikimedia Commons
シュメリコン。引用元:Wikimedia Commons
シュヴィーツ。引用元:Wikimedia Commons


各楽章には副題が付いている。第1楽章はWanderung im Hochgebirge、高い山でハイキング、といったところか。開始早々に雄大な景色が広がる。序奏のロングトーン、ティンパニのロール、これだ、期待通りの音楽だ。木管楽器の活躍も、自然をモチーフにした音楽には欠かせない。オーボエのハーモニーも可愛らしいし、主旋律を奏でるファゴット、そこに絡むフルートも良い。アルプスらしさという点ではホルンもそうだ。全体の進行は、雄大であると同時に優しさも感じる楽想の連続。それらがきちっと展開し交響曲を成す。メンデルスゾーンやシューマン、あるいはドヴォルザークなど、初期中期ロマン派交響曲にうっとりする人に、ぜひオススメしたい。
第2楽章はIn der Herberge、宿屋にて。弦楽による優雅な舞曲、チェロのヨーデル風の伴奏で始まるのも面白い。木管も可憐で、またときに華麗なる技を見せてくれる。良いアクセントだ。弦奏の美しさをいっそう引き立てる。グリーグの音楽のような趣きも感じてしまう。ゆっくり休んでいるというよりも、ダンスしたり、テニスなんかもしちゃったりして、アクティブに余暇を過ごしているような情景を思い浮かべる。一番短い楽章だが、ひときわ美しいと思う。
第3楽章はAm See、湖畔。緩徐楽章だ。ここではメロディ以上に、じっくりとハーモニーで聴かせる。湖畔をゆっくりと散歩しているのか、小波立つ湖面を眺めているのか……。僕は川をテーマにした音楽が好きとよく書いているけれど、こちらはさすが、河川と比べると確かに流れのない水面を思わせる、ラフの手腕。さすが湖畔の街生まれは違うね。時折うなるティンパニも絶妙だ、これは何を表しているのだろう。
第4楽章はBeim Schwingfest; Abschied、夏祭りにて : 出発、と訳せば良いのかしら。シュヴィンゲンという、スイスの相撲のようなスポーツがあり、アルプスの夏祭りで行われる。とはいえ、ドスンと重いことはなく、なんとも愛らしいフルートが、これは蝶々か子犬か、あるいは子どもが駆けているのか、楽しそうな祭りに誘う。低弦のザクザクしたメロディが聴こえるが、それがシュヴィンゲンなのだろうか、わからないけど、あまり激しい身体のぶつかり合いを感じることはない。楽しく華やかな祭日の雰囲気が描かれている。そして祭りのあとの一抹の寂しさを残しつつも、気分は晴れやかに旅立のだ。アルプスの山々よ、さやうなら、お世話になりました。パチリ。


リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲はしっかり登山だが、ラフの交響曲第7番「アルプスにて」はもう少し広く楽しんでいる。高尾山行った人が書くのに相応しい、なんて言ったらアルプス周辺の人に怒られるかな。もっと登山らしい登山をした際には、それこそ富士山でも登ったら、アルプス交響曲について書くことにしよう。そんな日は来るのか……。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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