アーベル 交響曲 ニ長調 WKO41:アルコール島戦記序曲

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アーベル 6つのプロイセン交響曲より、交響曲 ニ長調 WKO41

カール・フリードリヒ・アーベル(1723-1787)はドイツのケーテン生まれの作曲家。卓越したヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であり、ガンバのための作品を多く残しているため、ガンバ奏者やその愛好家にはおなじみの名前だろう。
ニューグローヴ世界音楽大事典のアーベルの項目では次のように書かれている。

アーベルの演奏は緩徐楽章において最も目を見張るものがあった。1784年のヨーロッパ・マガジン366ページには「ヴィオラ・ダ・ガンバに関しては、彼は本当に優れており、現代において彼より味わい深く感情豊かにアダージョを演奏できる人はいない」と書かれている。


また幼い頃のモーツァルトが、いわゆる「モーツァルト家の大旅行」でロンドンを訪れた際、アーベルと交流があったとされている。1764年、モーツァルトは学習のためにアーベルの交響曲(Op.7-6)を書き写し、それがモーツァルトの交響曲第3番K.18として長らくモーツァルトのオリジナル作とみなされていた。
きっとモーツァルトはアーベルの音楽から大いに刺激を受け、尊敬の念も抱いたことだろう。アーベルが亡くなった1787年には、モーツァルトはヴァイオリン・ソナタK.526の3楽章でアーベルの作品から主題を引用している。

Mozart: The Symphonies
エーリヒ・ラインスドルフ

Mozart: Violin Sonatas, Vol. 2. K. 296, 379, 526, 547, 306 & 481
Michele Boegner & Jean Mouillère


そんなモーツァルトも(多分)敬うアーベルの作品を今回は取り上げたい。がしかし、そこはボクノオンガクさんはひねくれているので、ヴィオラ・ダ・ガンバのための作品ではなく、モーツァルトが書き写した初期の交響曲でもなく、アーベル最晩年の交響曲である。昨年リリースされたCD「カール・フリードリヒ・アーベル: 後期交響曲集」に収録されている交響曲の中でも、最後の曲と思われるWKO41のニ長調交響曲についてだ。このCDの販促には「最後のガンビストにして最初期の交響曲作家、音楽史の狭間で活躍したアーベル珠玉の名品集」とある。昨年、2023年はアーベル生誕300年だった。


アーベルの父はJ.S.バッハが楽長だった頃のケーテン宮廷楽団で首席ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者を務めていた。1748年、アーベルはバッハの推薦でドレスデンの宮廷楽団へ。1759年、イギリスに移住。バッハの息子であるJ.C.バッハと親交と深め、「バッハ・アーベル・コンサート」と呼ばれる市民向けの演奏会を主催する。この演奏会は1782年にJ.C.バッハが亡くなるまで続いた。その後もアーベルは、当時ではだんだんと古い楽器とみなされてきたガンバの数少ない奏者として需要が大きかったようで、1782年から1785年にかけてドイツとフランスへ演奏旅行へ出かけている。1787年に没。大酒飲みの自信家で、生涯放蕩な暮らしぶりだったそうだ。


放蕩する生涯でありまた、生涯を通して多くの交響曲を書いている。バッハ・アーベル・コンサートでも演奏したのだろう。モーツァルトが写した初期のもの(1760年代のOp.7)から、今回の音盤に入っている最晩年の曲と近い時期のもの(1782-85年のOp.17)まで、ChandosやCPOレーベルで様々な演奏を聴くことができる。先述したベルギーAccentレーベルの後期交響曲集は、協奏交響曲を除く全ての交響曲が未出版であり、世界初録音である。

ABEL: 6 Symphonies, Op. 7
Cantilena

Abel, C.F.: Symphonies, Op. 17, Nos. 1-6
Hanover Band


今回取り上げるWKO41という作品番号の交響曲は、1780年代のバッハ・アーベル・コンサートや、アーベルがドイツ、フランスに旅行した際にも演奏された形跡があるそうだ。フルートで有名なプロイセン王フリードリヒ2世の甥で、次のプロイセン王であるフリードリヒ・ヴィルヘルム2世の前で演奏されたという記録がある。ロンドンで演奏された楽譜の一部の複写がベルリンの図書館に所蔵されている。


アーベルの色々な交響曲を聴いてみて思うのは、初期と後期であまり違いがないということだ。もちろん多少の違いはあるが、ハイドンやモーツァルトなどと比べたら、ほとんど差なんてないようなもの。つまらないと感じる人もいるかもしれない。でも個々の曲はどれも素敵だし、なんか生涯酒飲みで同じような曲ばかり作って、バッハの息子と演奏会やって楽しく過ごして死んだんだなと思うと、それはそれで羨ましい人生のようにも思えてくる。
実際のところ、J.C.バッハ46歳の早すぎる死を受けて悲嘆に暮れたアーベルは、59歳にして酒の量もさらに激増、故郷を頼ってドイツへ行くがそれさえ上手く行かず「やはり自身の活躍する場所はイギリスだ」と戻ってくるも、酒に溺れて体調を崩し亡くなったそうである。お酒はほどほどにね。アーベルの死はガンバの死、もうガンバは世の中で演奏されないだろうとまで言われたとのこと。


さて、WKO41について。「最初期の交響曲作家、音楽史の狭間で活躍したアーベル」というCD販促文の通り、時代の狭間の音楽で、何か革命的なものがある交響曲かというと、そうではない。編成も管弦楽法も時代通りのもの。収録の後期交響曲はどれも長調で、これはアーベルの特徴だそうだ。しかし、このニ長調交響曲WKO41では、1楽章で大胆な短調への転調も見られる。さながらハイドンの先取りだ。ガンバ作品の解説などを読んでも、アーベルの音楽は温和でエネルギッシュ、気楽な作風だ、とか、深い感情や疾風怒濤はほとんどないとか、そんな風に書かれることが多い。もっと強く、切れ味ある方が現代では好まれるかもしれない。だがこの雰囲気もアーベルらしさだ。
アダージョの演奏に定評のあったアーベル、彼の作る緩徐楽章はどうだろう。実はこの交響曲集の緩徐楽章はどれもアダージョではなくてアンダンテなのだが……しかしどれも美しい。ヴァイオリンに重なるフルートも素敵だ。ちょっとくどい気もするが、それが良さだろう。こういうくどさ、つまり変化の少なさがモーツァルトやハイドンとの違いかもしれない。これだって一種の「天国的な冗長さ」の仲間だろう。
第3楽章はTempo di minuetto、舞踏風で終わる。これはやや珍しいかもしれない。上品な貴族趣味。弦楽と管楽の重なりや、掛け合い、応答も楽しい。決して管楽器の使い方も独立したものではないし、あくまで弦楽をサポートするものだが、古典派音楽が好きな人ならきっと魅了されるだろう。現代のクラシック音楽ファンとしては、この後にプレストの第4楽章が欲しくなってしまうけれど。
まあでも、このくらいが丁度良いと考えることもできる。アーベルの初期交響曲は、ロンドンでは「序曲」として出版されたそうだ。交響曲のルーツはオペラの序曲(17世紀イタリアでシンフォニアと呼ばれた)だそうだし、急緩急で15分ほどの交響曲は、バッハ・アーベル・コンサートの開幕一発目の「序曲」にも相応しいだろう。今はなかなか、ガンバ奏者の演奏会以外でお目にかかることはないアーベルだが、オーケストラ・コンサートの1曲めの定番になる日もそう遠くない……かもしれない。屋外コンサートの1曲目にいかがですか? 芝生にシート敷いて、エールビールでも飲みながら聴きたいですね。

Abel: The Late Symphonies
Main-Barockorchester Frankfurt & Martin Jopp


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