ラモニナリ 6つのトリオ・ソナタ 作品1:亡霊とオレはパリを行く

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ラモニナリ 6つのトリオ・ソナタ 作品1

またジャケットで選んだだろとツッコミを入れられそうだなあ。もちろん、ジャケットで選んだ。美味しそうだったから。美味しそうなジャケットということは、きっと美味しい音楽なんでしょうね!
18世紀、現在のベルギーはワロン地方に位置するエノー州というところで生まれ、北フランスのヴァランシエンヌという街で活躍したヴァイオリニスト、作曲家のジャック=フィリップ・ラモニナリ(1707-1802)のトリオ・ソナタ集である。これが世界初録音とのこと。トリオ・ソナタ以外の録音を知らないので、もしかすると作曲家としても世界初の録音かもしれない。ラモニナリ、イタリアのガルッピ(1706-1785)やペルゴレージ(1710-1736)と同じ世代である。
ラモニナリの音楽の話する前に、気になるジャケットの解説をいたしましょう。ブックレットによると、18世紀ベルギーのトゥルネー窯で作られた、ファイアンス焼きという北フランス発祥の陶磁器だそうだ。そこに乗っているのはケーキか何かかと思ったけど、マロワールという、これもまたフランス北部で有名なチーズとのこと。多くの食通たちを唸らせる、古くから貴族たちに愛された、それはそれは美味しいチーズだそうで、検索したら「くさやの干物のような臭い」だと書いてあった。ああ、無理無理、僕そういうチーズ苦手なんだよ。どうしよう、これ聴くのやめよっかな(笑)
冗談はともかく、聴いてみたら非常に品のある香りが漂う、素晴らしいバロック音楽だったので大満足。ブログに書こうと決めた次第だ。勝手にチーズケーキだと勘違いして、わざわざチーズケーキ買ってきて紅茶と共に楽しく鑑賞してしまいましたが、お茶のお供にもよく合う、上品なソナタ。
上品というのは、もう少し具体的に言うと、激しくないということで、つまり変化の割合が少ないということ。それは退屈と隣り合わせかもしれない。まあ今回は、単に音の跳躍や楽想の急激な切り替えが少ないという意味であり、決してつまらない音楽ではなかった。
もちろん演奏が良いおかげもある。古楽アンサンブル「ヘミオリア」はフランスの団体で、イタリア音楽をレパートリーの中心にしており、またフランスの知られざる作曲家の復刻にも力を入れているそうだ。ラモニナリはイタリアの音楽事情にも詳しかったと伝えられているので、そんなラモニナリの音楽を演奏するのに理想的なアンサンブル団体と言えるだろう。
ラモーのようなフランスらしい繊細な音楽性も感じるが、あまり貴族趣味でお高くとまるようなこともなく、ごてごてに凝った装飾品というよりは、むしろ純朴で自然な歌が核にあると思わせる。コレッリないしタルティーニ風のトリオ・ソナタで、イタリアの名ヴァイオリニストたちのような活力も感じられるけど、それともまた少し違った味わいで面白い。イタリア・バロックのヴァイオリンの名手たちと、フランスのクラヴサン音楽を楽しんでから、このラモニナリの音楽を聴くと、その間とも言えるような絶妙なポジションであることがよくわかり、いっそう楽しいだろう。もちろん、その辺の知識がなくても十分楽しめる、良質なバロック音楽だと思う。


ラモニナリが現代であまり知られていない理由は決して音楽が劣っているからではなく、当時ロンドンやウィーンに並んで楽都であったパリに行って活動した記録が全くないからだ、と解説に書いてあった。なるほど、そういうものかもしれない。ラモニナリは生涯フランス北部から出ることなく暮らした。それでいて、イタリア風のヴァイオリン音楽を熟知していたのだから凄いことだし、記録に残らないだけできっと各地にそういう凄い音楽家だっていたことだろう。
2つのヴァイオリンと通奏低音による、急緩急の3楽章からなるソナタが6作。1楽章はAllegroかAllegro ma non tropoで、2楽章はそれこそラモーのような繊細で柔らかな雰囲気。6つのソナタのうち5曲にMinuetto Amorosoが含まれ、うち4曲はそれが3楽章に配置される。愛のメヌエット、ボッケリーニが有名だが、互いに影響などあったのだろうか。わからないが、この様式はラモニナリのパトロンの貴族のお気に入りだったそうだ。
生没年を見ても長生きしたことがわかるラモニナリ。晩年は交響曲の作曲に励み、フランスにおける交響曲の草分け的存在となったとか。北フランスの街で歌とヴァイオリンの教師をして暮らすも、フランス革命の頃には相当貧しかったようで、貧乏のうちに亡くなった。そんな話も知ると、やっぱり売れる売れないとか、有名か無名かとか、地位が高いかどうかとか、そういうのは音楽の良し悪しとは関係ないなあと思う。もしラモニナリがパリで活動していたら、音楽史は変わっていたかもしれないし、そんな人はきっと無数にいたはずだ。歴史の淘汰を経て生き残った名曲はもちろん素晴らしいけど、あまりそこに大きな価値を置くのも良くないかもしれない。深い訳があって後世まで残る音楽もあれば、たまたま残ったものもある。その逆で、忘れ去られるべくして消える音楽もあれば、偶然残らなかっただけで、実際はこの上なく素晴らしい音楽もあるだろう。未来もわからないし、過去も未知のことが多すぎる。僕もまだ何も知らない。ラモニナリの亡霊を連れてパリに行ってみよう、あっという間にヴェルサイユ御用達になるかもしれない。優雅にチーズケーキなんて食べて聴いていたら処刑されるかもしれないね、危ない危ない。現代で良かった。

Lamoninary: 6 Trio Sonatas, Op. 1


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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