ヴィドール フィレンツェ組曲:しなやかに歌って、この歌を

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ヴィドール フィレンツェ組曲

「オルガン交響曲」という、オルガンのための新しいジャンルを切り開いた作曲家、シャルル=マリー・ヴィドール(1844-1937)。長生きしたヴィドールは彼自身がフランス音楽史を構成するとも言われる。若い頃はロッシーニと食事をしたこともあり、リストやサン=サーンスとも親交があり、教師としてミヨーやオネゲル、メシアンを指導している。
長くオルガン奏者を務めたヴィドールはオルガン作品を多く残し、現代のオルガン奏者たちにも重要なレパートリーになっているが、他のジャンルの作品はあまり知られていないだろう。このフィレンツェ組曲は、もしかするとフルート好きであれば名前を聴いたことがあるかもしれない。コンセルトヘボウ管のフルート奏者だったリーン・デ・レーデは、ヴィドールのヴァイオリンとピアノのための「フィレンツェ組曲」をフルートとピアノ用に編曲し、それをさらにエマニュエル・パユが改訂したものが出版譜として存在する。パユ自身が演奏しているものは見当たらなかったが、ヴィドールのフルート組曲Op.34ならパユも録音している。このフルート組曲Op.34は多くのフルート奏者が取り上げており録音も多い。

Franck – Widor – Strauss works for flute / フランク&R.シュトラウス:フルート・ソナタ集


フィレンツェ組曲のフルート編曲に関しては、出版譜が容易に入手できる割にはあまり聴かない曲だが、やはり「いかにもフランス風」なフルート組曲Op.34で十分と思われてしまうのと、あとはヴィドールがオルガン界隈以外で知名度が低すぎるのも原因の一つではないか。パユが吹いて回ってくれれば有名になるのかもしれないが。パユほどの影響力はないが、僕もここでプッシュしておきましょう。もちろん、原曲であるヴァイオリンの方をね。


バレエやオペラなど、オルガン作品以外でも成功を収めたヴィドール。室内楽作品や歌曲などは、オルガン製作者アリスティド・カヴァイエ=コルが主催していたサロンで演奏する用に書かれた初期のものが多く、それらはヴィドールの名声を高めるのに役立ったそうだが、今回取り上げる「フィレンツェ組曲」は1919年の作品。ヴィドールは75歳。ちなみに翌年の1920年、ヴィドールは76歳の時に37歳のマチルド・ド・モンテスキュー=フェザンサックと結婚している。CD解説を読んでいたら「この結婚に向けて、彼は数々の色とりどりの恋愛の冒険を経験してきました」と書いてあった。気になるので、今度暇なときに調べてみるか……。
1919年、イタリア王妃エレナがパリのエリゼ宮を訪問することになり、それに合わせて作曲された。もともと1903年に作曲したヴァイオリンとピアノのための組曲Op.76の編曲であり、それ自体も劇音楽“La Sulamite”から抜粋して再構築したものだそうだ。しかし、この組曲Op.76も詳しくわからないし、元の劇音楽“La Sulamite”に関しては、検索してもこの「フィレンツェ組曲」の解説以外全く見つからないので、こちらも詳しくわからない。フィレンツェ組曲の方は、1919年2月20日にエリゼ宮で初演されたそうで、ヴィドールがピアノ演奏を務めた。

カッシーネ公園。画像掲載元:Hotel Brunelleschi
ボッティチェリの『春』。画像掲載元:Wikipedia


全4曲の組曲で、演奏時間は11-12分ほど。第1曲“Cantilena”、ピアノのロマンティックな伴奏に、美しいアリアの旋律。タイトルに偽りなし。1919年の曲にしては随分古風で、ブラームスやシューマン、メンデルスゾーンのような趣きがある。そこにもう少し別の味付けが加わるような。ヴィドールは別に強烈な保守でもなんでもなく、パリ音楽院でヴィドールに学んだヴァレーズは「最もオープンで理解のある教授」と評している。ヴァレーズが言うんだからそうなんだろう。
第2曲“Alle Cascine”、フィレンツェにある大きな公園、カッシーネ公園の情景。軽快な音楽だ。最後の方ではヴァイオリンの技巧的なパッセージの裏でピアノが堂々と主題を奏でる、美しい。短い曲だが勢いのある、良い音楽だ。
第3曲“Morbidezza”、柔らかく、とか、しなやかに、という意味のモルビデッツァ。あまり音楽用語としてお目にかかることはないが(ドビュッシーの「レントより遅く」で出てくる)、元はルネサンス芸術で用いられる言葉であり、肌の色の自然な繊細さ、柔らかさを指す。ルネサンスの哲学者マルシリオ・フィチーノ(1433-1499)が作った語だそうだ。ということでフィレンツェにちなんだタイトルのこの曲、穏やかな子守歌のような音楽を、ルネサンス絵画を思い出しながら聴こう。
第4曲“Tragica”、悲劇的、強い感情を湛えた3拍子の舞曲から始まり、中間部ではいっそうリリカルな音楽に。情緒的にも技巧的にも両者盛り上がり、最後は長調で終わる。この楽章を聴くとヴィドールの凄さも思い知るというもの。
ヴァイオリンでもフルートでも、コンサートピースに程良い規模の作品だ。演奏も増えてほしいし、録音も増えてほしい。記事冒頭の音盤に収録のヴァイオリン・ソナタも良い、さながらブラームス。でもフィレンツェ組曲の方が好きだなあ。↓はフルート版、木管のための作品集。

ヴィドール:木管楽器のための作品全集


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