熱心なコンサートゴアーではないとはいえ、毎年第九は聴きに行っていて、コロナ禍の2020年は行けず、2021年はバッハ・コレギウム・ジャパンで聴いたんでした。そのBCJ第九の感想記事でも、家にチビっ子たちがいるのでソワレもめったに行かないとか、子どもとお風呂入れるうちはいっぱい入っておきたいとか言っているんですが、これはまだ継続中。家族旅行などを除けば夜にパパが家にいないというのは年に1,2回くらい、子と風呂に入らない日はパパが風邪引いたときくらい、というスーパー子煩悩パパなので、基本ソワレはスルー、何か事情があるときしか行かないんです。昨年は第九は行けず、12月に別のソワレに行っています。これも事情があるから行ったやつ。そしてこの読響第九もまた事情があるから行ったのであります。うう、本当はウクライナ国立フィルの第九(22日芸劇)に行きたかったよう、ジャジューラさんの指揮は過去2回ウクライナ国立歌劇場管の第九で聴いていて(2018年と2019年、リンクは感想記事、こんなご時世になってしまった今こそぜひ、両方読んでください)、本当に年末に聴くにふさわしい第九で最高なんですけど、予定が合わず無念。ですが、この読響の第九も十二分に満足した演奏会でした。
【デ・フリーント指揮読響第九 第668回名曲シリーズ】
(2023年12月21日、サントリーホール)
ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱」
指揮:ヤン=ウィレム・デ・フリーント指揮
ソプラノ:森谷真理
メゾソプラノ:山下裕賀
テノール:アルヴァロ・ザンブラーノ
バス:加藤宏隆
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
ということで、1年ぶりのソワレ、2年ぶりの第九。まず、いつからフリエンドさんはフリーントさんという日本語表記になったんだ、とそこから驚き。フリエンドさんの録音は結構色々聴いていたので、とても楽しみでした。指揮者も楽しみだし、読響も上手いので楽しみだし、ソプラノは森谷真理さんで超楽しみだし、久しぶりのソワレも楽しみで、ちょっと浮かれていたのもあり、アークヒルズでビールをガッと飲み、サントリーホールで響のロックを飲み、身体と精神を清める。僕はウイスキー大好きですけど、響はやっぱりサントリーホールで飲むに限る(適当)。ここで飲むのが一番美味いんじゃないかなあ。美味すぎて、逆にもう音楽聴かなくて良いんでないかと思ってしまうくらいですが、寒い体を温めてから聴くのが年末の第九の醍醐味と言えよう。あ、酔っ払いの(注:この程度では酔いません)感想なんて興味ないという人は読まないでくださいね。これは頭の良い人の評論ではなく、素人の感想文ですよ!
BCJの次に聴く第九がまたしても古楽よりになってしまった。大編成大迫力を期待していた人はちょっと物足りなかったかもしれないけど、クリアな音でキビキビ動く第九は、年末恒例行事で聴きにきた、いわゆる普通の音楽好きの人たちも楽しめたんじゃないでしょうか。ノンビブラートでグイグイ進む、快速第九。でも古楽オケじゃないからね、チェロの人でめっちゃビブラートかけまくりの謀反者がいたぞ(笑) 他にもちょいちょいかけてる人いたけど、まあ、いきなり言われても難しいんでしょうね。そもそもモダンオケでノンビブラートをすること、ないしHIPの真似をすることに意義があるか云々の話はまあ、正直もうどうでもいいかなって思うくらい、別にありふれたものと化した手法で今更ケチつける必要もなし、やりたいことやったもん勝ち、楽しんだもん勝ち、年末なら。極端な原理主義者はモダン派でもHIP派でもそんなハイブリッドはおかしいと言うかもしれないが、そのおかしいところが楽しいのであって、ね。
全体的にテンポ速いけど、ただ速いだけでなく、生まれてくるグルーヴがとても美しかった、それが良かったなあ。フリーントさんが面白い身体の動きで全身で表現している通り、ただ高速、ただ変なフレージング、というのではないのがね。2楽章はもちろんですが、1と3でもそうだった。聴こえにくい声部を活かすことやフレージングで遊ぶことが、それ自体が目的ではなくて、それらを通して美しい流れ、湧き上がる良いグルーヴに繋がっているのが、聴いていて心地よかったわ。まあ多分、頭で考えて聴くタイプのオタクはこんなの「古楽指揮者の悪ふざけ」としか思わないでしょうが、第九ってそもそも普通の交響曲じゃない変な曲なので、変なことすることでひょっこり生まれる不思議な魅力もあり(それがベートーヴェンの凄いところでもあり)、その辺は感じられない人には絶対にわからんですからね。多分、古楽或いはフリエンドの音楽をたくさん聴いている人や、感覚的に聴ける人、ジャズとかポップスに多く親しんでいる人なら、自然と楽しめるやつです。あ、あと酔っ払いもかな、あ、あの、僕は全然、酔ってないですからね! 金管もブイブイ、かっこよかったし、木管はもっとほしかったくらい。ティンパニ良いっすね、ブラボー。ソロは女声すごかったね、圧巻だ、満足満足。バスはどうですか、皆さん、ああいうの好きですか、僕はあの第一声、思わず笑いそうになりましたが、まあ、良いんではないですか(笑) 個人的にはテノール、好きな声質ですけど、あんまり今回の第九って感じではなかったですかね、オペラで見てみたいですね。合唱も上手で、良い第九でした。
古楽系の客指揮でここまでできたら、そりゃ褒めるわ、手兵じゃないんだぞ、十分過ぎる。読響は上手いなあ。そういえば少し前に、某海外オケの来日公演に関する極めて強い批評がTwitterで話題になっていましたが、強く批判したりディスったりするのは、僕はそれ自体は全然OKだと思うし、良いぞーもっとやれーとも思うんですけど(笑) それと同時に、その音楽に対する自分の聴き方が果たして正しかったのかも、よく振り返るべきだと思うんですよね。例えば今回のように、日本の年末の恒例行事である第九でHIP寄りの客演なんかしたら、つまらん演奏だったと一言で切り捨てるようなクラオタもいそうですけど、半分は演奏家のせいで、半分は自分のせいだと考えてみると、音楽の楽しみ方もきっと増えるはず……なんだけどなあ、結構、クラシック音楽は頭で考えて理解するみたいな聴き方が正義だと考えてしまって、それ以外はしない(あるいは今までの人生経験で習得していないのでできない)人も多いですし、なんならケチつけることを楽しんでるようなタイプもいますしね。頭でっかちが多いからな、僕みたいにアルコール入れて聴くなんて論外なんて思ってる人もいるでしょ、きっとね。もちろん色々な人がいて良いと思いますけど、まあでもね、サントリーホールはサントリーのホールなんですから、ぜひ響を飲んで聴くと良いんですよ。どんな演奏であっても、終わった後に「ああ今日はいい響だった」と思えるからね。その点、今日はいい響と良い響きでしたよ!
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more