アルコール島戦記4:宮城峡蒸留所を見学する

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★前回の記事はこちら→アルコール島戦記3:鹿六六六越淡々(2024年7月19日)

(記事作成日:2025年4月17日)

3月にニッカウヰスキーの蒸留所である「宮城峡蒸溜所」の見学に行った。仙台市の青葉区というところにある。ア・バオア・クーではない。なんでそんなくだらないことを言ったかというと、一応このブログ記事は「アルコール島戦記」という不定期連載であり、戦記という体を取っているからである。仙台のウイスキー要塞に攻め入るぞ、ってね。冗談はさておき、この話も早くブログ書こうと思っていたのだけど、最近ちょっと忙しくて後回しにしていたら、もう一月ほど経ってしまった。もっとも、アルコール島戦記は雑談メインのエッセイであり、まっとうな見学レポートなど書けるわけないので、純粋な酒Lover諸氏のご期待に沿える内容にはならないことを先に謝っておく。すまない。それでもきっと誰か読んでくれると思っているし、少しでも、今後行きたいと思う人の参考になったら嬉しいので、一応書き残しておくのである。


そもそも仙台にはコンサートを聴く目的で行った。そちらの感想記事もあるのでどうぞ、そこでもお酒の話をしてるけど……。祝日の15時開演だったので、開演前に仙台観光するぞという目論見だ。宮城峡蒸留所は仙台市内にあるとはいえ、ぐっと西側の山の方、仙台駅から電車(仙山線)で40分の作並駅が最寄り。そこからはシャトルバスが出ている。電車の本数も多いわけではないし、蒸留所見学コースも1時間ほどなので、仙台駅からは往復の移動と滞在で最低でも3時間以上は見込まなければならない。コンサートに遅れたら本末転倒。ということで、結構シビアな旅程になった。本当なら泊まりで来たかったのだが、僕は毎晩、可能な限り夜は子どもたちと過ごす時間を重視する素敵なパパなので、前乗りはせずに当日始発の新幹線で行くことにしたのだ。始発はやまびこ号盛岡行き。ギリギリ次のはやぶさ号でも間に合いそうだが、仙台駅の在来線乗り換えに慣れてないので、ミスったらおしまいである、ここは安牌で始発。めちゃくちゃ早起きして始発で蒸留所に向かう自分が面白くて、なんかいい。お酒のために早起きするって、ちょっと不思議だ。外まだ真っ暗だよ。僕は何をしているんだろう……(笑)


旅行のときに朝から特急や新幹線の車内でプシュッと開けるビールも大好きだが、さすがに始発で6時から飲むのはどうなのかと、乗車前に少し頭をひねってしまった。ここは我慢した方が、蒸留所の試飲がより美味なのではないか。と、大人しく(大人なのだろうか)コーヒーとサンドイッチだけ買って乗車。近頃よくニュースで東北新幹線が止まるのを見ていたので心配もしたけど、無事に仙台着。まだ朝8時だ。仙台に来たのは2017年以来である。Twitterの方では少し思い出話なんかも出したが、実は過去に何度も来ている仙台。仙山線に乗るの、相当久しぶりだ。

作並駅。すぐニッカのシャトルバスが。
ウォーキングコース案内。


作並駅に着く頃には小雪が舞い始めた。雪は好きではないが、ワクワクしているときに舞う雪はなんか良い。この辺りは作並温泉で有名だそうで、新川(にっかわ、と読む。ニッカウヰスキーとは無関係で、ただの偶然だそう)周辺のウォーキングコースも案内されていた。季節と天気が良くて時間に余裕があったら、蒸留所まで歩いて行くのも気持ち良さそうだ。歩くと40分ほどで着くとのこと。今回は時間との戦いなので(戦記である)、蒸留所が出しているシャトルバスを使う。朝9時頃にこの駅で降りる人は温泉客が数人と、あとはシャトルバスに乗り込んだのが10名ほどだろうか。こんな朝早くから物好きなやつがいるもんだなと、自分のことは棚に上げつつ、駅のすぐ目の前で待っているバスに乗る。9時10分定刻発。出発すると10分もかからないですぐ蒸留所に着くけど、山なのでこれは歩いたら時間かかりそうだ。そして前もって調べていた情報の通り、確かに蒸留所の看板が見えてから見学受付のビジターセンターまでが案外長い。徒歩で行くなら見学開始時間に間に合うようかなり余裕もって行かないといけないだろうね。

ビジターセンターの展示の一部。かっこいい!
ボトルがズラリ。


僕は事前にネットで9時半からの見学予約を申し込んでいたけど、当日受付してる人もいたっぽいな。無料のガイドツアーは約70分(蒸溜所見学50分、無料試飲最長20分)。受付を済ませ、開始までの短い時間に、某ぬいぐるみを画角に入れた写真撮影を一生懸命行う。こんなことしてるの僕だけかなと少し恥ずかしい気持ちも無くはなかったが、見学中には貯蔵庫をバックにして知らないぬいぐるみ撮影をしているおっさんもいたので、仲間だなと思ってそっとしておいた。ジャンジャン撮りましょうね! ツアー中は、案内の方が解説しつつ、撮影可能なところでは「ぜひ撮ってください!」とアピールしてくれる。↓のキルン塔のある側は見学申し込みした人しか入れないようになっている。歩きながら、自然を活かした建築にしているという話や、電線は地下に埋めるように竹鶴政孝が指示したという話を聞いた。スコットランドで見た蒸留所をしっかり真似て作っているのだ。あまりネタバレを書いてしまっては行く人のためにならないだろうと思うが、蒸留したてのお酒(ニューポット)の香りを嗅げるところもあったし、またビジターセンター内の展示ではピートで燻した麦芽の香りも嗅げて、目と耳だけでなく鼻でも楽しめる。

シンボルであるキルン塔。今は使われていない。
蒸留器も間近で見られます。
貯蔵庫の中。
ピートで燻したモルト。香りを楽しめる。


50分ほど蒸留所内を練り歩き、しっかり見て解説を聞いて、それから頂く試飲が良いのだ。試飲は3種。まずは、これがなくてはお話にならないシングルモルト宮城峡と、ニッカの顔とも言えるスーパーニッカ、そして歴史あるアップルワイン。ニッカは日果、大日本果汁株式会社が元ですからね。もちろんどれも美味しかったし、お酒はもちろん、新川の天然水も良かった。この水がものすごくうまくてビビる。そりゃ良いお酒出来ますわ。チェイサーでも割り水でもぜひどうぞと言われて。悩みましたが、チェイサーにしかしませんでした。いやほら、試飲、おかわりできるなら次は割るけど、一応最初はストレートでいくでしょう。仕方ないね。でも割ってみたかったなあ。というか、時間がなくてね。この段階で10時15分くらいなんですよ。作並駅に戻るシャトルバスが10時30分発で、それに乗らないと次が11時30分なんです。お昼食べる時間とか、あと仙台駅から地下鉄でホールのある泉中央駅に移動する時間とか考えると、ここで1時間の余裕はない。試飲コーナーのすぐ横がギフトショップで助かった。3種の試飲をしっかりと味わい、新川の美味しい水も味わい、超スピードでお土産を購入し、駆け足でバス乗り場へ。美味しいウイスキー飲んですぐ小走りしている自分が面白くて、なんかいい。宮城峡のエキスを速攻で全身に回している感覚だ。僕は何をしているんだろう……(笑)

お待ちかね!
案内の方のおすすめフォトスポット(笑)


ところで話は変わるが、クラシック音楽界隈では、よく演奏評などでこういう表現を目にする。いわく「私は〇〇の良い聴き手ではない」と。これはある特定の音楽を指して、それを好んでいないことの婉曲表現であり、〇〇は嫌いと直接言うと角が立つのでそれを避けるために使うのだが、僕はこの表現が嫌いである。嫌いなら嫌い、苦手なら苦手と言ったら良いのにね。まあ僕だってたまには言葉の綾で、似たような表現をするときもあるかもしれない。でも「良い聴き手」は言えないんだわ、他人に配慮すること自体は良いことだとしても、僕はこの表現を見るとつい「嫌いでも苦手でも文字通り良い聴き手であるということはありえるよな。良い聴き手であることに、好きであることや沢山聴くことや詳しく知っていることなどは、本当に必須なのだろうか。良い聴き手とは一体何だろうか」と思ってしまうからだ。もっとも、中にはファンへの配慮ではなく自分と趣向の違う人を嘲笑うような皮肉で使う人もいるが……皮肉だって、僕は好きですよ。ただ皮肉にしろ配慮にしろ「良い聴き手」の意味や定義をすっ飛ばして婉曲のためだけに使うのが、どうも納得いかないのである。この表現を使う人は界隈では非常に多く、そんなに拒絶するほどのものでもないし、他人が使う分にはその人の自由だけども、僕は使わない。僕は使わないと断った上で、その表現を借りて言えば僕は間違いなく「ニッカの良い飲み手ではない」と言える。そんなに飲まないし、そんなに好きでもない。あ、でもアサヒビールさんにはお世話になりましたので、どうも、いやいやそんな、ニッカウヰスキー好きですよ、好きに決まってるじゃないですか、やだなあもう!


当たり前だけど宮城峡とかめちゃくちゃ美味いし、余市も竹鶴ももちろん、セッションも美味いよね。セッション好きだよ、音楽ファンだからではなく、味が好き。フロンティアも、そんなに大好きってこともないけど美味しいよね。と思いつつも「良い飲み手」になれなかったのは、多分、学生時代にニッカの安いウイスキーを雑な飲み方でガンガン飲まされたせいだと思う。今思うと、そういうの良くなかったと思うわ。ブラームスの大学祝典序曲の記事でも触れているけど、悪しき学生文化である。もちろん青春の思い出としては大事な思い出だけど、ウイスキーを好きになるにあたって自分にとって大事だった出来事とは言えない。結局、ちょっといい美味しいウイスキーを飲んで、ああ、こういう世界があるんだなと感動して、それで好きになっていったんであって、そうでなければあのヒゲのおじさんの顔見るだけで嫌になっていたかもしれない。今の若い子たちがどんな風にお酒を楽しんでいるか知らないけど、簡単に嫌いになるような飲み方(飲ませ方)も、まだきっと横行してるだろう。昔より強要は減っただろうけどね。

ニッカ セッション [ ウイスキー 700ml ]


今回はたまたま仙台に遠征したいなと思えるコンサートがあって、たまたま仙台にニッカの蒸留所があって、そこに行って自分なりに音楽もお酒も楽しめた。この経験は、確実に「ニッカの良い飲み手」になる手助けになったと思う。ニッカのウイスキーは、僕にとって「楽しい思い出と共にあるもの」になった。僕はお酒にしても音楽にしても、まあその他でも、専門的に突き詰めていって評価することを楽しむ姿勢は、もうかなり自分に不向きだなと思うようになってきている。もともとそうだけどね。でも周りのオタクとか見てると「凄いなあ、詳しいなあ、耳も頭も良いんだなあ」と思って、ちょっとそのレベルは無理かなって。そう思うことが多くなり、諦めもついてきたというか、ね。音楽の演奏評も、ピュアにやるならブラインドテストでもしたら良いだろうし、不要なノイズを限りなく排除して集中して臨むのが良い。もちろん、僕もその方法論自体は知っているから、エキスパートでなくても真似事して楽しみたいときはあるさ。でもやっぱり、自分には難しいね。色んな事情や体験も含めて、ブレンドして考えちゃうわ。なんて、無理やりウイスキーに譬えてみる。シングルモルトにはシングルモルトの良さがあり、ブレンデッドにはブレンデッドの良さがある。うん、そんなに適切な譬えでもないな、なんなら僕最近はシングルモルトばっかり飲んでるしな(笑) ともあれ、好きなお酒飲んで、好きな音楽聴いて、また好きなお酒飲んで……というのが、自己流の「良い楽しみ手」への道なんだなあと思う。今回でだいぶニッカ好きになったよ。まあもう一回くらい宮城峡蒸留所に行って、今度は新川の水割りで楽しめたら、そうしたら「ニッカの良い飲み手」を名乗ってもいいかな。それか余市蒸留所に見学行ったら、かなあ。そんな風にしてもう一段階ステップアップしたら、今度は良い思い出のないブラックニッカを久しぶりに買ってみても良い、かもしれない。まだそこまで心許してないぞ。でもこれだってね、今回もっと時間の余裕があって、心ゆくまで有料試飲を楽しめたら違ったかも。まあ、また行けってことだな。はいはい、行きます行きます。待っててね!

シングルモルト 宮城峡 [ ウイスキー 700ml ]


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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