ゴセック 軍隊交響曲:吹奏楽に革命を

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ゴセック 軍隊交響曲


夏になると吹奏楽コンクールの話題が見られるようになる。練習して吹いている若い子たち(大人もいるけど)をよそにネット上では様々な舌戦が繰り広げられており、そういうのを読んでいると僕も一言物申したくなる。しかしTwitterで書いてもちっとも得しないというか、上手くない気がするので、こうして自分のブログに書いている。最近「吹奏楽コンクールの演奏は音楽ではない」といった文言を中心にやんややんや盛り上がっていた。言い方は悪いが主張の内容には概ね同意だ、あれは音楽の形式でもって行うスポーツに近い。世の中の音楽コンクールはトップクラスのものからアマチュアのものまで、多かれ少なかれスポーツ的要素はあるにせよ、吹奏楽コンクールはその傾向が強くなり過ぎていると思うし、あとはとにかく、演奏される曲がやばい。いかに演奏技術を競う競技とはいえ、コンクールで一夏かけてやる曲にしてはあまりにしょうもない曲が多すぎる。たとえしょうもない曲でも「青春時代に一夏かけて何かをなすこと」自体は貴重であり得られるものもあるので、曲のことをグチグチ言うと和を乱すやつ扱いになるのかもしれないが、しょうもない曲は誰がどうしたってしょうもない。こんなこと、わかっている人は大勢いるはずだが、世の中は簡単には変わらないものだ。僕自身は高校と大学でしか所謂ちゃんとした吹奏楽はやっていないけど、高校で出たコンクール2回のうち1回と、大学で出たコンクール3回のうち2回はクラシック作品の編曲もので、曲に関して言えば恵まれている方だと思う。ただまあ、そんな理由もあり吹奏楽コンクールにはもうさすがに興味を持てないし、演奏会にしたって、しょうもない曲を真面目にやらざるを得ないことも多かろうと想像すると、もう吹奏楽団体に入って楽器やりたいとは思えないのだ。

とかなんとか、Twitterで書いたら意味不明な反論が来て面倒くさそうなので、こうして自分のブログに書くくらいで良い。気が向いたらもっとブログに書いてみたい……けど、結局面倒で書かなそうだ(笑) しかし、吹奏楽という音楽そのものは好きなので、よくブログでも書いている。このブログの吹奏楽記事もそこそこ数が増えてきた。その中からいくつか↓にリンクしておくので、色々読んでみてください。


こんな話題も、紹介する曲がゴセックの軍隊交響曲なら、前書きにしていいんじゃないかと思って書いたのだ。フランソワ=ジョゼフ・ゴセック(1734-1829)はフランスで活躍したベルギーの作曲家で、今はヴァイオリンの「ガヴォット」だけが有名だが、交響曲やオペラなど様々な音楽を残している。ハイドンの2歳年下、95歳まで長生きしており、没年にあたる1829年はロッシーニがウィリアム・テルを作曲、若きショパンがウィーンで演奏会を開いた年でもある。バロックの終わりからロマン派まで生きたすごい音楽家だ。やっぱり100年くらい生きると、時代の変化はものすごいものを見れるんだなあ。
変化の傍観者というのでもなく、ゴセックはまたフランス革命に大きく関わった作曲家でもある。多くの革命歌を作曲しているし、1790年には革命1周年を祝う「テ・デウム」を作曲。合唱1200人と管楽合奏300人を要する大作だ。ゴセックは、革命に息巻く者たちを鼓舞する合唱や、屋外で大音量で演奏できる管楽器を用いた音楽をどんどん発展させることに寄与した作曲家でもある。人々が社会を変えよう、変化を起こそうとした時代に共鳴した作曲家による、音楽史を動かす車輪のような音楽が、ゴセックの吹奏楽作品なのである。なんて言ったらカッコつけすぎかもしれないが、こうした大編成管楽の試みはベルリオーズに受け継がれ、その後の音楽に大いに影響したのは確かだ。ということで、吹コン一辺倒の日本の吹奏楽界にも革命を!と思い(自分で起こす気もさらさらないのに)、ゴセックの軍隊交響曲をオススメしたい。


1793年から94年にかけて、国民軍の軍楽隊のために書かれた曲。フランス革命について調べてもらえればわかる通り、1792年にはオーストリアとの間でフランス革命戦争が始まり(そこでマルセイユから駆けつけた義勇兵が歌っていたラ・マルセイエーズが後に国歌になる)、とにかく兵を募りまくっていた時代である。詳しい作曲の動機は不明だが、行進曲ではなく交響曲であることを考えると、式典などで用いるためだったのではないだろうか。
ゴセックは「フランス交響曲の父」などと言われることもあるように、早くから交響曲を作曲し、しかも数も多い。本家「交響曲の父」ことハイドンが最初に交響曲を作曲したのが1757年頃で、ゴセックは1754年とも1756年とも言われ、ハイドンよりも早いのだ。
管弦楽のために作曲した交響曲も素敵な曲ばかりだが、この「軍隊交響曲」は管弦楽ではなく軍楽隊、吹奏楽のための交響曲。第1楽章Allegro Maestoso、第2楽章Larghetto、第3楽章Allegroという構成。演奏時間は全て合わせても数分という短さだが、ペンシルベニア州立エディンボロ大学のDavid Swanzy教授は、合唱と吹奏楽のための第4楽章があったと主張している。事実だとしたらベートーヴェンの第9番より30年も前に合唱付き交響曲が存在したということになる。まあ本当かどうかはわからないけれども、ハイドンやベートーヴェンよりも多分ちょっと先見性のある作曲家として見直してもらえたら僕も嬉しい。ヘ長調で始まる1楽章、当時の金管はF管が多かったそうだ。華やかで勇壮な音楽から、第2楽章は一転して8分の6拍子の牧歌的な音楽。第3楽章はハ長調になる。快活で爽やかな音楽だ。確かにもう1楽章くらいありそうな気はしてしまう。
吹奏楽のための交響曲は数多くあれど(今年はマンハッタン交響曲の記事も書いた)、これはおそらく最古のものであり、フランス革命の時代の空気をそのまま伝える音楽でもある。吹奏楽コンクールで勝てる曲ではないが、ある意味、本当の「戦い」を知ることのできる音楽であり、そういうスポーツ的に勝てる曲ではない別のところに音楽の真の価値や喜びがあると思う。絶対王政を倒さないと未来はないのだ、吹奏楽の世界もね。

Grande Symphonie Funebre Et Triomphale
John Wallace (アーティスト, 指揮), Xavier Lefèvre (作曲), & 7 その他


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Author: funapee(Twitter)
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